短編集Tanpenshu
時空を超えてBeyond time and space
- 第9話:正体
朧浪(ろんらん)は博識だった。
ズオォォォォッ
旅に出る最後の、ということで記念にクルージング(船に乗って遊覧すること)を楽しむふたり。
朧浪「ちみっこい頃からそりゃもう英才教育を受けたからね
そりゃ色々知るさ・・・」
コウ「(ちみっこい?ああ、ちびっこい、のことか)」
こんなに頭が良いのに、何故 ああもふざけた振りをするのか
ハッ
極めて温厚で慈愛に満ち、美しい人間たちがいる、、
一方で信じられないほど残酷な面もある。
「(ダブル・パーソナリティ・・・)」
コウ「朧浪さん、もしかして。台北(タイペイ)出身?」
ぐるんっ!
と振り向いて朧浪が言った。
「台北出身だね!何故分かった!」
コウが嬉しそうに、しかし次の瞬間に哀しそうに言った。
・・・溟渤(みんお)様も台北出身だった。
そういうことろも似てるんだ。
コウ「優しい慈愛の海と、荒れ狂う大波。
二面性が怖かった」
目が灰色になっている。
ざざーっ
どしゃっ
昔・・・
朧浪が語りだした。
朧浪「僕は台北出身だから、台北って言ったら台北って相場は決まってるじゃないか。
だから台北なんだって思ってね」
コウ「(言語を司る部分の脳に変なシナプスでも入っているのか、、壊れているのか・・・)」
朧浪「台北に住む謎の、、空想の妹を探す旅に出た・・・
8歳の時に」
コウ「(・・・え?)」
そこで
朧浪「ついに、、そこで妹を見つけた。
日本人だったが」
コウ「日本人?」
少し声のトーンが上がる。
・・・
『またね』と言って、去り際、僕の頬に口付けをして去っていった。
淡い色の民族衣装。
日本人。台北じゃないけど。
妹だったよ
コウ!!
朧浪はガシッとコウの腕をつかんだ。
「何故隠す!お前!・・・じゃない君!・・・いや あなた!・・・いやコウ!!」
コウ「(え、、あ、、はい?)」
アホなことを言ってはいるが、ものっすごい朧浪の顔は真剣だ。
おまえはあの時の人魚だろう!人魚っていうか あの時の、、
「俺を助けてくれたのは・・・島で介抱してくれたのは、、君だろう!」
ピシッ!
・・・
そういえばそんな記憶が有ったような無かったような。
遠い昔・・・。
クルージングを楽しんでいた。
溟渤が雲隠れてからすぐ。
気分転換をしようと思って。
男の子が溺れていたから
助けた・・・
そのまま近くの島に上陸した。
尻尾を見られたらやばかったから。
術をいっぱい使って、、回復させて。
直前まで持っていた「ココナッツミルクジュース」を飲ませた。
男の子は言った。
「ぼくはあにいもうとが、、なかよくなってけっこんするっていうすとーりーがすきなんです。
ぜひ、すもーるらいとでちいさくなってぼくとけっこんしなさい」
コウはニッコリ笑って言った。
「可愛らしい男の子。でもね、私はもうお兄さん、、えっと主君て言うのかな。そういう人がいて。
あなたの妹にはなれないの」
すごく悲しそうな顔をする男の子に、
またきっと会えるよ。と言った。
男の子「あなたはいったいどこのくにのひとですか」
「ジャパン(日本)よ」
何度も何度も腕をひっつかみ、海に帰らせようとしない男の子。
「いつかきっと、きっとおおきくなったらまた、きみにあいにいく!」
・・・
コウは、男の子の頬に口付けをして、「またね、きっと会えるよ」
そう言って海へと去って行った。
朧浪「こうやって。・・・やっと手に入れた。
俺の勝ちだろ?」
?!
コウは振り返った。
その、、朧浪の目を見た時に悟った。
今までのことは全部演技だったことを。
朧浪「莫迦な人だな。賢者と愚者は紙一重って言うだろ。
賢者は自分のこと賢者なんて言わないがな」
コウ「全部・・・?え・・・?」
朧浪「『大和民族』が好きになったのも全部君がきっかけだよ。
何故気が付かないのかな」
ニヤリと笑う。
コウ『溟渤様、わたくしはみんなの道化(どうけ)です・・・』
溟渤『頭が良くないと道化にはなれない』
ゾクッ
『頭が良くないと道化にはなれない』
溟渤様・・・
た、助けて、、、
海に飛び込みそうになる衝動を必死に抑えるコウだった。
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