小さな世界 > 第5章「知られざる」
時計の音
音楽のような癒され空間、冴子の診療部屋。
冴子はいくつもの診療部屋を持っており、例えば疲れた人にはまどろみの部屋を、
緊張した人には柔らかさのある部屋を、など・・・
該当する部屋にその存在を連れてゆく。
ここは普通の冴子の私室。
青くなった彩海が疲れきった顔で椅子に座っている。
A層以下の人間たちがG層に行けなくなったこと。
その異常事態に、特にA層の人間たちは戸惑いの色を隠せないでいた。
ノックの後に諭弦が入って来た。
「この後に竹流さんもいらっしゃいます」
トポポポッ.....
あらかじめ持って来ていた温めた煎茶をカップに注いでいく諭弦。
・・・
「千条院さんは主を探しているらしいわ
まだ見つかっていないみたい」
トポポ.. トポポ..
バササササッ バサササッ
ハッ
3人が窓の方を向く。
カツンッ...
冴子が窓まで歩き、カーテンを開いて窓を開けた。
巨大な鴉(からす)。
バッサバッサバッサ
カーッ!
「うん、うまい」
熱い煎茶を飲む竹流。
冴子が少し笑って言った。
「この前は黄色い鳳(おおとり)だったわね」
カップを持ち上げて、「お替りある?無かったらいいけど」
と諭弦に言う竹流。
「前は大きな赤い鶴」と彩海。
お替りを注ぎながら「そういえば大きな白鳥の時もありましたね」と諭弦。
竹流「え?そう?覚えてないけど
ま~でもやっぱ、鴉・・・いや巨大なウグイスだね
なったのいつだっけ」
彩海「だってほら、ウグイスだけ片仮名っぽく読むじゃない」
え、だって片仮名でしょあれ。
漢字ってどう書くっけ
紙にキレイな字で「鶯」と書く諭弦。
火をふたつ、に鳥ですね。
緊張感が切れてのほほ~んとする冴子部屋。
―・・・という訳で
「変わってしまったG層について語るわ」
と冴子。
・・・
みな無言になる。
コッチコッチコッチ.....
時計の音が響く。
室内のエア・コンディショナーの音も響く。
冴子「竹流さん、あなたの魔法でどうにかならないかしら」
竹流を見る冴子。
腕を組んで考えていた竹流がパッと腕を振りほどいて天井を見た。
「それやってみたんだけど。あれってね、一時的なものだと思うんだよね
どうなんだろう」
彩海「一時的・・・」
彩海が反応する。
コクコクッ
目を点にして煎茶(ぬくい)を飲む竹流。
片手であご周りをさわって落ち着かないでいる彩海。
諭弦「彩海さん、大丈夫ですか?」
彩海「秘密管理人も教えていない。
花宇さんが心配だわ」
目をつぶって考え事をする彩海。
・・・「僕が行ってさ、教えてあげられればいいのにね。
シュンちゃんだもん。G層の秘密・・・背骨?任命したの」
ピーキュルルルルッ ピピーッ キューッ
(こんにちは~ ぼくはたけるくんです)
鳥語を話す竹流。
テレパシーとして遠くの相手の心にも響かせることが出来る。
ただし鳥語を理解しないといけないため、テレパシーはたいてい(というか全部)
A~B層の存在たちにする。
・・・
冴子「A層の存在になったとはいえ、花宇さんは元C層の人間。
鳥語を理解出来るとは・・・思えないわ」
え、何故という顔をする諭弦。
その顔を見て冴子は答えた。
「元々銀色のものと、元々白のものに銀色のものを塗ったものは違う・・・
そういうことね」
再び静寂。
ただただ、時計の音と、エア・コンディショナーの音が響いていた。