小さな世界 > 第5章「知られざる」
ムジカ
静かな威俐私室。
時刻をチラッと見る威俐。
まだ5時を少し過ぎた辺りだ。
食器を片付け、ふたりは音楽再生機のところに向かった。
「え?」
聞き返す妃羽。
古代ギリシャでは「神の真理」「調和」を表す学問として『音楽』が
そのうちのひとつに入っていた。
というようなことを言う威俐。
動かないものを数えるのが「数学」、
動かないものの量をはかるのが「幾何学」、
威俐「動いているものを数えるのが『音楽』」、
動いているものの量をはかるのが「天文学」。
MUSIC。ミュージック。
ムジカ。
ムジカ・ムンダーナ=星々が奏でているのではないかと言われている
ムジカ・フマーナ=人間の魂や肉体が奏でていると言われている
ムジカ・インストゥメタリース=楽器や声帯で奏でられる音楽
妃羽「(奥深いんだ・・・知らなかった)」
優雅にLDを選ぶ威俐。
妃羽「音楽は、世の中の真理なんですね」
ハッ
威俐は気付く。
「(世の真理が『音楽』。なら『音楽』を掌握しているであろう妃羽が世界を握るのは必然、か・・・)」
あれ?逆かな?
音楽と世界・・・ ぶつぶつつぶやく威俐。
・・・
ドビュッシー:月の光
静かなピアノ曲が流れる。
威俐「いい曲だな」
珍しく褒める威俐。
ハッとする妃羽。
「(弾いたことない。練習してお聞かせしたい)」
早速ピース(楽譜)を買うのをいそいそせっかちに考えてしまう妃羽。
(やはり物質主義)
・・・
しかし何となく険しい顔をしている威俐。
妃羽は迷惑なこともしてしまったし、これ以上おかしなことをしないようにしようと思った。
月の光を美しく弾けるようになったら、少しは挽回出来るかな、と思う妃羽。
うぐっ?
なんか・・・弾けない気がする
月の光?月光?
月光、は暘谷さんの・・・
月・・・
威俐「ちょっとこっちおいで」
何も知らない威俐が妃羽を呼んだ。
エア・コンディショナーの音が響く。
もう少し早くが良かったな。
物質主義。
言ってもしょうがないことを言う。
とてものほほんとした空気に変わった。
召し使いA「ちょっとー、またそういうの持ってきてるのぉ?」
「あ、李さん」
A「もう、隠したって無駄なんだから」
愛衣「あー、Aさん、Bさん、こんにち、、おっはようございまーす」
手を振る愛衣。
愛衣「私この微妙に可愛くないメソが好きなんですよね~」
B「あーそれ」
A「んもう!」
ウィーン
ウィーン.......
バタンッ
ドタドタ
パタパタッ
朝の騒がしい時間が始まる。
花宇「あー、あの『すごいよ!マサルさん』ですね~」
愛衣「知ってるんですか?」
わいわい
A「ちょっと!」
あっ
「Aさん、あの。今日も?ですか?
威俐様がお部屋から・・・」
・・・
A「もう7日間も・・・」
召し使い全員が同じ方向に顔を向ける。
B「さっき、生存確認?しました。困ってはいらっしゃらないようでしたけれど・・・」
冷蔵庫、リネン系、お風呂、トイレ、冷暖房器具。
それらは全てある。
すたすたせっかちにAは歩いて行った。
「何か重要な話し合いでもしてるのよ。
私たちは不介入。それが鉄則よ」
花宇「(養殖で育てる樹よりも、天然で出来る樹の方が素敵。ね、そうでしょ・・・
それがやがて不可侵の森林に、なれたら・・・)」
下を向く花宇。
花宇「(なれたら・・・)」
ウィーン.......
朝の騒がしい音はずっと鳴り響いていた。