小さな世界 > 第5章「知られざる」
数からの
ライチー飲料水がとうとう完成し、後は宣伝会社とのやりとり、運送会社の検討などを決める段階に来ていた。
出荷は夏ということになっているのでまだまだ発売は後である。
うああ"っ!
ガバッと夜中に飛び起きる妃羽。
はぁっはぁっ
口元を押さえ、数秒して安堵のため息をつく・・・。
毎夜のことである。
例の悪夢。
妖怪のような者たちが、黒い沼にひきずり込もうとしているのだ。
下へ、下へ、と脚をひきずり込む。
このままずーーっと下ーーの方の世界に引っ張られる、息が苦しいっ!
抗えない!
その瞬間、目が覚めるのだ。
今は同じ部屋にいる威俐に、その都度「大丈夫だよ」と介抱?されている。
物質主義に移りかけている妃羽と、精神主義に転じてきている威俐が
一緒にいても何ら問題はない、ということになって同じ部屋にいることになった。
同時に、妃羽の苦しみが尋常ではないため、看なければという名目もあり
毎晩妃羽を看ている威俐。
とても心配で、彼はほとんど寝ていなかった。
くらっとする威俐。
妃羽「威俐様 済みません」
威俐を支える妃羽。
林『あなたは頼られている。未生命?とやらに』
林の診療所で固まる妃羽。
『僕はトロールと呼んでいましたけど、未生命という存在だそうで。
信じてませんがね。
ただ、この世界の下の世界・・・地獄だとか何だとか言われている処に引きずり込むのが』
そういう存在なのです。
『オカルトだと思うでしょう?
空想の世界です』
・・・
地獄って・・・
妃羽『意味が分かりません。どうしてこんなこと』
少し汗をかいていた彼女。
・・・
林『大丈夫ですよ。彼らに地獄に引きずり込む力などありません。
『足を引っ張りたい』だけで』
未生命は大量に増えてしまった。
数は途方も無い数。
途方も無いのだ・・・暗闇を食い潰すくらいの!
増えすぎた未生命が、妃羽に『救ってくれ』『助けてくれ』とすがっている・・・
或いは生まれることが出来なかった恨みを理不尽にぶつけている
とのことであった。
・・・
林『この世に、生まれてはいけない存在などひとりもいない。
みな、生まれるべくして生まれてきた。
未生命は負け組なんです』
我々『生まれることが出来た人間』は、未生命を決して許してはいけない
慈悲も絶対に掛けてはいけない。
あなたはね、彼らに頼られてるんです。
優しいんですよ。付け入られている。
現在―・・・
林穏里(りん わんりー)医師の言葉を反芻する妃羽。
全て化学的な根拠のない『完全なオカルト話』である。
最後に「全部空想だ。こんな風に考えれば気持ちがラクになるだろう」的なことを言い、
あくまで『これは現実の話ではない』という意見を完全に貫いた。
チュン チュンチュンッ.....
朝の明かりがもれる。
「威俐様、いつもご迷惑を掛けて済みません」
そう言ってぎゅーっと抱き付く妃羽。
「ん」
スッスッと髪をなでる威俐。
「(鈍い私でも分かるわ。あれは『本当の話だ』って先生は言いたいんだわ)」
ではじゃあ、本当の話だとして。
一体何をすればいいのだろう。と考える。
『あなたはね、彼らに頼られてるんです。
優しいんですよ。付け入られている』
悪い意味で。と前に言われた。
『優しいから あ、悪い意味で、ですよ(苦笑)』
突き放す。
情けを掛けない。
慈悲を持たない。
妃羽「(何もしてないよ)」
どんどん自信がなくなる妃羽。
ただ、何とかしなきゃと体の『芯』は言っていた。
未生命の数の増加と・・・
人間の質の低下
それによりG層の世界の物理的な呼び名『地球』がどのようになっていくのか。
これは意図的な「主」と呼ばれるもののシナリオ?なのか、壮大なバグなのか・・・
何もかも。
沈黙。