短編集Tanpenshu
じあいJiai
- 第5話:われる
本当にね、キレイなところだったのよ。
もう身も心も癒されてね。
嗚呼、今も思い出すわ。
『安曇野(あづみの)』
母親が、結婚する以前に旅行で行ったところだと言う。
母親「だから安曇、あなたの名前はそこから取ったの」
ニコニコ顔の美しい母親。
安曇は 母親が苦手だった。
とても優しい人だったから わがままを言ったら悲しませてしまいそうで。
(子供のくせに・・・何を考えてる)
安曇はいい子ね。
頭も良いし、優しいし、○○いいし・・・
ハッ
安曇は目が覚めた。
外は真っ暗。
顔をしばし押さえ、時計を見る。
『4:34』
・・・
・・・
バサッ
掛け布団を掛け、そのまま また寝た。
眠れなかった。
うっうっうっ
すごく泣いていた、洋子。
洋子とは安曇のクラスメートである。
先日、安曇の家に来た。
過去を思い出して涙を流してしまった安曇に寄り添い、
しばしそのまま彼を見守っていた。
安曇がやっと落ち着いた頃、
うわーん!!
と子供みたいに泣き出したのだ。洋子が。
「安曇君が!安曇君が!攻撃されちゃうよ おっ」
え? と言う安曇に
ぐしぐしっと涙を拭き、
「安曇君可愛いもん!可愛いから攻撃されちゃう っ」
ピシッ!
何かが割れた。彼の中で。
安曇君が安曇君がぁあぁあ・・・
彼女はずっと顔を覆って泣いていた。
「あ、あたしがずっと傍にいて、、 で、守ってあげたいけど、、物理的に無理じゃない」
・・・
「洋子・・・」
やっと言えた安曇。
「あづみぐん っ、、ずっと守ってあげるから。と、淘汰なんてされないよ
絶対! 絶対っ!」
ぎゅっと目をつぶる洋子。
只野安曇(ただのあづみ)。
彼は人間を、猿や猿人、原人などに見えてしまう不思議な能力?を持っている。
稀(まれ)に 普通の人間 を発見することがある。
その数少ない「真人間」のひとり、、クラスメートの「椛山洋子(かばやまようこ)」とひょんなことから知り合い、何故か複雑な事情で(過去参照)家に招くことになった。
その際、まだ人間をちゃんと「人間」として見ることが出来ていた頃の、、忘れていた美しい記憶を思い出し、涙してしまった。
それを大丈夫?と必死に慰めた洋子。
洋子に、
「真人間」は淘汰される運命である、という事実を付きつけ、
一度は「それが運命なら」と受け入れた洋子だった。が。
地球がなくなっても私は生き残る!と言い放った洋子に、何故か忘れていたその美しい記憶が、、蘇ったのだ。
『あづみぐん、、ずっと守ってあげるから、、と、淘汰なんてされないよ
絶対! 絶対!!』
『安曇君可愛いもん!可愛いから攻撃されちゃう!』
・・・
何かがヘドロのように自分の中から引き上げられる。
身震いをする安曇。
母親『安曇はいい子ね。
頭も良いし、優しいし、かわいいし・・・』
かわいい?
『かわいいし・・・』
『安曇君可愛いもん!可愛いからいじめられちゃう!』
誰にも言われたことはない。
可愛い?俺が?
ポカポカと
陽気な気持ちの良い日差し。
くるくるくるっと 花の輪を付けた少年が体を倒して回っていた。
記憶が混在する。
夢でもないのに夢のような訳の分からない、不条理な・・・映像。
あれは
洋子だ
そして俺だ
「(俺たちは・・・片方を奪い、片方を譲って、、)」
そして生まれてきたんだ。
生まれる前の記憶。
魂の、、片割れ。
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