短編集Tanpenshu
じあいJiai
- 第8話:とれーしーは
只野安曇(ただのあづみ)と椛山洋子(かばやまようこ)。
人が猿、猿人、原人、旧人、普通の人間(真人間)、に見える不思議な能力を持つ、
「存在感の薄い男子高生」
と
特に能力はないが、
「存在感と影響力が半端ない女子高生」
ふたりは何故か意気投合し、お互いに交流?していくうちに
生まれる前に仲良くしていた魂同士だった、、と分かった。
何かを与え、何かを奪い、
そんなことをしてお互いに偏ってしまった雰囲気だとかオーラ。
ただひとつ、「真人間」であるふたりは少数派のため、淘汰されるべき運命であることが分かり、それで戦々恐々としていた。
が、
すぐに「私は生き残って見せる!」と根性を見せた洋子と、
「傍にいてくれ」と洋子にすがった安曇。
ふたりは淘汰される運命であるが、洋子はずっとずっと傍にいると安曇に誓った。
感情の無かった安曇は少しずつ感情を取り戻していった。
同時に欲も芽生え、少しずつ向上心だとか闘争心などが出てくるようになった。
反対に、椛山洋子も以前のようにストーカー並みに人から注目を浴びることもなくなっていき、
感情だとか欲だとかは元々人並みだったが、更に少なくなっていった。
ずっと洋子の傍にいたい安曇は洋子を自分の屋敷に住まわせた。
生まれてからずっと感情がないまま育っているため、取り戻した感情が大きすぎ、
甘える対象がないため、そうせざるを得なかったという訳だ。
両親は海外におり、使用人たちはいるのだが、さすがに甘えると威厳がなくなってしまうので。
「わ、私たちが一緒になったら、、優等種がで、出来るかも」
ある日洋子が言った。
えーと・・・言葉を選ぶ。
優等種、、い、1位と2位、、だったんでしょ?わ、私たち・・・
振り返り気味だったが、
完全に向き直る安曇。
「い、1+1=2 じゃないかもしれない。3、、とかになるかも・・・なんて」
安曇「可能性はあるが・・・
淘汰人種が子孫を遺したところで、、結局その人間も・・・」
洋子「あ、、そうか」
口を手で押さえ、悲しそうな顔をする洋子。
わ、私・・・
安曇君て す、すてきな、、えっと私が椛山洋子なんてヘンな名前だから、、
だから、、可愛い名前を、、安曇君みたいな、、何せ、、な、何せ私がこうだから、、何かそういうのがこう ふと考えてたら、色々考えちゃって、、
テンパリ語(というのが本当にある)を話す洋子。
「俺の子供が欲しいの?」
いや、違う!両手をぶんぶん交互に横に振る洋子。
「わたしたち、のよ
それじゃあ あなた個人になっちゃうでしょ!」
らしいな、という顔をして微笑する安曇。
少数派はいつの時代も弱者だ。
後世に例え名を刻むようなことを成し遂げても、
自身は幸せな人生を歩むとは限らない・・・
「で、でも!生きる、ってことは素晴らしいことだと思う」
不幸になろうがなんだろうが、、
でも、、・・・日本に生まれたからそう思える、、のかな・・・。
最初から何もない方がいい。
無が一番、、なのは確かだ。
有る。無の逆だが。 有る、のは自己の意識の確認そのものであり、
自分をまず守り自分を優先にする方向に力が動く。体という組織が。
「世の中はそうじゃない」
悲しそうに安曇は言う。
自分のための人生なのに 他人のことばかり気にする。
他人の目ばかり気にする。
みな、自分という一番大切なものを捨てている そんな世の中だ。
だっ
洋子が言う。
「だから、、みんな、、おさるさんに、、おさるさんとか猿人とかに、、退化していっているのね」
「おそらく」安曇が答える。
そんな時代に、俺たちの子を遺せない。不幸になると分かっているのに
洋子は、ブラッド・ピット主演の映画『セブン』を思い出した。
「(似たような台詞というか場面があったような・・・
こんな時代に子供は遺しちゃいけないとかそういうの・・・)」
安曇「『有』を大切に出来ない世の中に新しい『有』を出すことに何の意味がある」
・・・
「それなら最初から何も無い『無』が一番いい」
ととととトレーシー・・・
えっと、、グウィネス・パルトロウが演じてた役、、『セブン』のですけど、、
そういう世の中でも生もうとしてました!と、トレーシー・・・
せ、セブン、知っていますか?
「知ってる」
答える安曇。
私は自分の証を遺したい。
あ、あなたとの証も・・・
変な意味じゃないのよ
下を向く。
「君はまだ子供だな
子供が子供なんて作るととんでもないことになるぞ」
安曇は壁に寄り掛かった。
グッ!と体を固くする洋子。
「こ、子供で結構よ!
わ、私はただ、、あなたが好きなだけよ!好きなだけなのよ!」
キョロキョロッ
あっ と小さく声をあげて ソファーからクッションとパッと取って
ばかっ!!
と思いっきり安曇の顔にぶつけた。
バタバタバタバタッ
どこかに走り去ってゆく洋子。
・・・
・・・
・・・
『あなたが好きなだけよ!』
ずっとその言葉を、実は待っていた。
少しだけ、、・・・涙が、、出た。
『嬉しい』、その感情を初めて知った瞬間だった。
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