短編集Tanpenshu
時空を超えてBeyond time and space
- 第10話:想い出
引き続き、クルージング。
コウ「だまされたなんて。千両役者ってこういう人ことを言うんですね。
ココナッツミルクも・・・(息切れ)」
朧浪(ろんらん)「何と言うか、(略)だったし、ひょっとしてあの人かな、と思ったんだ」
再会時の時のことを言う朧浪。
初めてコウの体を見て思ったことを素直すぎるほど言った。
かつてない鉄拳をくらい、
そのまま鼻血を出して尻もちをついて、、それでも格好付けながら朧浪は言った。
それで?
「君はどこ出身なの?だまされたがり屋さん」
コウ「(たがり、って・・・)」
東京都。
あ・・・とした顔の後に。
そっか。と小さくつぶやく朧浪。
「そうじゃ、ないかと思ってたよ」
・・・
・・・
媽媽(マーマ)がそうだった・・・。
媽媽(マーマ)=中国語で「お母さん」。
・・・
えっ
「東京。お母様は日本人?」
朧浪「日本で生まれただけ。中国人だ」
黙り込む朧浪。
義渠(ぎきょ)『おまえが大好きでね、いつもおまえの人形をたくさん手作りで作って、、』
あの日、お父様は・・・
「東京都民の人が、嫌いなんですか?」
こんな話をすれば「ハァ?」とか言われて中和されるに違いない!と思った。
朧浪は頭を左右に振って、両手を腰に当てた。
「何もかもが駄目。くしゃみしてもバキューンて撃ちたくなるな。咳してもムカつく。
挙句の果てに○が○○いときた。
自分本位でしか動かないくせに他人の行動には敏感で、何と言うか、『恥を知れ』って言いたくなるな」
コウ「・・・も、もう一回。
えーっと。
『自分本位でしか動かないのに他人の行動には敏感・・・』
それは、、どうだろう」
でも!
「○○○いとかは決め付けるのは良くない!東京都民の女性に失礼ですよ!」(こだわりはココ)
媽媽は○が○○いからって哺乳瓶で俺を育てた。
朧浪は心から憎いというように、、搾り出すような声で言った。
それはひどい。
どんなに○が○○くても、無理矢理授乳すれば絶対に母乳は出るのだ。
(本当です)
・・・
お母様のこと、大好きだったのね
媽媽か。
もしかしてそれでお母様を、、媽媽を恨んでるの?
いくらなんでも
無言の朧浪。
溟渤(みんお)もそうだった。
「たったこれだけのことで?」
という事をとても恨むところがあった。
プッと笑ってしまうコウ。
・・・
コウ「東京都民は関係なかったんですね。
全部媽媽で」
たったひとつのことでここまで許せない、なんて。
それだけ好きだったのかな
ぼんやり思う。
1、抱っこして欲しいオーラ出しているのに気付いてくれなかった
2、誕生日を一度忘れられた。
3、媽媽がインフルエンザにかかった時、看病したのに気付いてくれなかった。
コウ「(駄々っ子じゃないんだから・・・汗)」
頭の中に流れ込んできた事象。
媽媽は若年性アルツハイマー型認知症に罹患し、何かの事故で脳に障碍を負ってしまった。
今は毎日大好きな朧浪の人形を作ったり、匂いを嗅いだりしているようだ。
?
コウ「(多分、そうよね。これは)」
それとも生まれつきなのか、、後天的なものか。そもそもアルツハイマーではないかも。
ハッ
『そうじゃ、ないかと思ってたよ』
さっきの言葉は?
あ、あの
似てるんですか?お母様に。
さっき「そうじゃないかと思ってた」って。
朧浪「似てるというか
雰囲気というか。
・・・
何となく」
寒い風が吹く。
もう初秋に近付いている、という証拠なのだろう。
「(あっという間に日も暮れて・・・)」
朧浪「出立はいつだ」
事務的な声。
朧浪の方を向くコウ。
俺たちは、時空を超える旅に出るんだろう。
早く、、と言ったら急かすことになるが・・・
いつになるのかなと思った。
準備は一日で済ますとして。
コウ「あさってから行きましょう!」
笑って楽しく言った。
分かった。
明後日だな。
朧浪はそっと、、本当にそっと、、空を見上げた。
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