短編集Tanpenshu
時空を超えてBeyond time and space
- 第12話:変化
当然恐ろしく冷たい眼で、肩肘を付きながら いる朧浪(ろんらん)。
無言のままだ。
たぎろぎもせずに美しい顔で美鈴(めいりん)という女性は黒っぽい艶やかな服でゆっくりと朧浪に近付いていった。
朧浪が座っている白い丸いテーブルのところに・・・
ここはテラスから歩いた、屋外の場所だ。
あちこちに丸いテーブルと丸い椅子がある。
「旅?あなたは余命が少ないと聞いたわ。
そんなところにあなたを行かせるものですか。
私、1秒でも惜しいの・・・。
一緒に居たいわ。
朧浪たら、ねぇ朧浪?」
ず~っと表情を変えずに冷めた眼をしている朧浪。
もうひとり、
後ろから可愛らしい、、「女の子~~」としたような
それはもう天使のような、砂糖菓子を溶かしたような可愛らしい女性がスタスタと歩いてきた。
「朧浪、儷(りー)よ。私のコト、覚えてる?」
少し下を向いて恥ずかしそうに言う。
無言の朧浪。
いい加減になさいよ。
美鈴がきつい声で言う。
空気だとでも思ってるのか?
微動だにしない朧浪。
「私と儷が折角来たのに。
・・・(チラッとコウを見る)へぇ?あんなのと結婚して
それで妻ひとすじなオレ、を見せ付けてるの?
そんなの似合わないくせに」
ず~~~っとやりとりは続いていたが、コウはどうしていいか分からずおろおろするばかりだった。
「(ずっと、、遠慮して来なかった、、でもやっと来て、、それなのに朧浪さんのあの態度。
片方の女の人が機嫌悪いのはそのせいか。
あのふたりは幼馴染なんだろうな。朧浪さんの)」
私、、関係ないのに。
特にあの、美人だけど美鈴って人私にすごい敵対心持っていて怖い。
荷物も服も何もかも揃えて、って時に
タイミングが悪い。
「(縁起が悪いのかな?
今日は行くなってことかな。時空の旅。
すっごく楽しみに、、していたのに)」
朧浪は、美鈴と儷が船で去って行った後、
やはり同じポーズで海を眺めていた。
いつの間にか、ハァッとため息をつきながら横の白い椅子にコウも座っている。
「(朧浪さん、引く手あまた。
あのふたりを奥さんにすれば彩りのある人生になれただろうに。
・・・でも冷めている人だから何かあるのかな)」
権力のある男は、多くの妻を娶る。
それは今も昔も変わらないだろう。
「(まず正妻かな。そういう人を作って、第二夫人、第三夫人、、
そんな感じになるのかな。
きっとそういう世界、、なんだよね)」」
さっきの女性ふたりは
大輪の薔薇と谷間の白百合のような、、華やかと儚げ(はかなげ)の組み合わせというか
「(セットで面白い。赤と青みたいな。太陽と月みたいな。セットで揃えれば、、って変な言い方だけどなんかお得(?)な感じがする)」
それにあの様子は 朧浪大好き~ というオーラがとても満ち溢れていた。
欲しくないのだろうか。変な言い方だけど。
疑問に思うコウ。
朧浪は「あれだな。菊花と芙蓉(きっかとふよう)ってやつだな」と言った。
菊花=華やかな菊
芙蓉=はかなげな芙蓉
そう。薔薇と白百合、、
とても素敵。
花、育てたい。
ポツリ、と雨が降る。
ポツリポツリ ポツリポツリ
コウ「もうこんな時間。時間も経っちゃったし、明日にしましょう。今日は休みましょうか」
今日は日が悪い。
雨も降っているし。
行くと悪いことが起こるよ、ってことなのかも。
ガタッ
疲れて立ち上がった。
朧浪はやっとポーズを崩した。
朧浪「何故嫉妬しない!」
ガッターン!!
彼の座っている白い椅子が派手に倒れた。
・・・っ?
コウは開いた口が塞がらなかった。
「し・・・?な、何故・・・」
突然の怒声にびっくりする。
朧浪「ああいうキレイな、キレイ、だと世間で形容されている女たちがオレに気があって。
莫迦かおまえは。自意識過剰女!」
こ、こ、怖い。
コウはあまりの眼の鋭い朧浪にそのまま後ずさって、、どこか壁があったらよっかかりたいと思った。
「おまえは・・・」
何か言い掛けたが、クッ!と白いテーブルを殴ってそのままテラスの中の屋内に入っていってしまった。
美しい顔を持つ、、次期史家総帥だった男性。
道化の面もあれば、聡明な面も持つ。
自信がないのか?
あんなに恵まれているように見えるのに。
女に免疫がない。そんなことはないぞ、と言っていた。前に。
「(そりゃそうだろうな・・・)」とコウは思う。
放っておいても女が寄って来るだろうし。
何故嫉妬しない!
・・・私たちはそういう夫婦じゃない。
嫉妬をされて、愛されてる実感が欲しいのだろうか。
朧浪さんが女性に興味を持つとは思えない。
お母さんかな。
お母さんを誰かに求めてるのかな。
間違いなくそうだ。
お母様・・・
私の持つ「聖の術」、、人の心の痛みを治すものはない。
無力さに肩を落とすコウ。
空がピカッ!と光り
コウの白い体を貫くように豪雨が襲った。
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