短編集Tanpenshu
時空を超えてBeyond time and space
- 第17話:時空を超えて
もやがかった、数ヶ月前。
愛凛がまだ居た頃。
朧浪(ろんらん)とコウの元に。
たまげた
朧浪「おっまえ頭良いなぁー」
人を褒めたことがない朧浪が驚いたように愛凛に言った。
愛凛「ん。ありがと」ニッ
愛凛は短くニコッとした。
コウ「ハーブティですよ。カモミール。
どうですかお勉強は」
コウが部屋に入ってきた。
ロンローン!
(朧浪の愛称)
愛凛が習字セットを抱えて屋敷をうろうろした日があった。
・・・
『彩織』
朧浪「ツァイチー(彩織)?」
私の名前になるはずだったの
今の名前はお父さんが付けたものでね
書いてみたかったんだ
朧浪「へー」
おにーちゃんに子供が、、女の子がもし生まれたら『彩織』って付けるんでしょう
省略するが、愛凛は泣いた。
お母さんがとても恋しいようだった。
朧浪は愛凛を抱きしめた。
父親がずっと傍にいなくて 母親と兄と一緒に居るという背景があったから、
母親が絶対者だったんだな
と。思う。
朧浪は愛凛の頭を撫でた。
「(迷惑が掛かるから、・・・と自ら母親の元から逃げ出したんだよな。
この子は)」
朧浪さん!
朧浪さん!
ぽかぽかした陽気な朝。
すっかり新妻風な感じになっているコウが朧浪を見下げていた。
ニッコリ笑って言った。
コウ「おっはようございます!」
ざ・・・ん
すぐに場面が変わる。
夕陽だ。
朧浪は、溟渤(みんお)から授かった「名賢の珠」を海に勢い良く投げて、、波がざぶんさぶんっとゆらいでいる海を見つめるコウを 見守っていた。
何も声を掛けられず。
ずっとそのままで。
私の「主君」は
『史 朧浪』ただひとり、なんです。
溟渤様には想う方がいて、お子様がおふたりいて。
それが「血族」で
誰も立ち入ってはいけない・・・
溟渤様は
いつか私がちゃんと学んで、名賢の珠を海に返すことを知っていて・・・
「私を信頼してくれて、くださったんだわ・・・」
朧浪「・・・」
神様。お許しください。私は誓いを破ります。
永遠に誓っていた、、「名君、賢臣の誓い」を今破ります!
お許しください!
私には溟渤様が全てだった。
でも
もう、私が大切なのは「溟渤」ではない。
朧浪・・・。
・・・
その様子を、後ろの建物のテラスからキセルを吸って見守る義渠(ぎきょ)。
『出来ません』
義渠『ならこの話は白紙だ』
(第5話:龍と香)
・・・
義渠「(主君を裏切らず、・・・最後には夫を取る。か)」
「人選は間違いないようだったな、朧浪・・・」
つぶやく義渠。
血、血族の長である義渠、
息子朧浪。
海の神溟渤、
臣下洋香(コウ)。
義渠が消え、溟渤が雲隠れ、
全てが消えて。
それでも、、
血が続いてゆくのを
永遠に
朧浪とコウは見守ってゆく
空間を越えて
時間を遥かに飛んで
時空を超えて。
溟渤という海から、空へとはばたいてゆく。
愛人(アイレン)!
ばったん(朧浪が倒れた音)
あいれんあいれんあいれ~~~ん
あの日の繰り返し。
ずっとふたりは楽しく寄り添い。
人々を見守っていく・・・
(了)
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