短編集Tanpenshu
時空を超えてBeyond time and space
- 第8話:横顔
片方の頬が青く
もう片方が真っ赤。
「術が成功したってこと」
コウはニコッと笑って
ホ・・・とした顔をした。
青い頬は「冷静」「知性」「大海」「修行」を表し、
赤い頬は「情熱」「感性」「太陽」「謳歌」を表す。
人生そのものである。
普通の人間はそれがとても小さい。
目に見えない。とても透明に近い青色と赤色である。
半・不老不死の人間は細胞自体が「真っ青」「真っ赤」で出来、
半・恒常的に細胞が活性化され、老いるのが遅くなるのだ。
普通はそんなに活性化されたらむしろ老いるのが早くなるだろうに、老いさせる器官そのものが大海と太陽で出来ているようなものだ。
成長は20歳で止まり、20歳以上の人間はそれ以上老いない、ということになる。
溟渤(みんお)から術を授けられた当初、コウは18歳。
現:朧浪(ろんらん)は25歳。
コウ、朧浪=20、25歳。
コウ「えっへへー!これで、、溟渤様と一緒に長い旅が出来るようなもんだーっ」
嬉しそうに言うコウ。
一緒に色々と勉強をした。
コウは人外の生き物、朧浪は200年の時を生きる存在として生きる。
人から離れ、色んな場所を旅する、、そういう人生を歩まざるを得ない。
コウ「へぇ・・・」
朧浪「民俗学だと色々あってね。
俺は、『大和民族』こそ、最も素晴らしい民族だと、結論付けた」
立ち上がり、「ちょっと」と言ってココナッツミルクジュースを取ってくる朧浪。
コウ「(素晴らしい民族?そうなのかなぁ・・・)」
朧浪「賢人は自分のことを賢人なんて知らない。
分からない」
コウ「私、元日本人ですけど。
あ、元、っていうのは人外だから。
人外は人種がないからなのですが」
賢人・・・
そんなこと。
日本が?
朧浪「冷静な立場から言うと。濃い原液が中国で、それを極めて洗練された液体にしたのが日本。
決して、、日本は中国の属国ではない。欧米人はそう揶揄するが・・・」
でも
コウ「属国みたいなものかも。昔はそうは思わなかったのですが。
文化とかそもそも中国が元になっているし。
漢字とか」
ゲルマン民族、スラブ民族、ラテン民族。
アジアは漢民族、朝鮮民族、
『大和民族』。
朧浪「・・・総合力だな。精神・歴史・文化・治安・教育・政治。色々あるだろう。
どこの国も、、総合力だとどうしても弱くなる。
どこかが極めて素晴らしくても・・・」
コウ「・・・」
朧浪「日本は、世界一位どころか、そんなものに当てはめるのすらおこがましい民族だ」
コウ「絶対そんなことありません
そりゃ、、治安はいいかもしれませんが」
うつむく。
日本人の、頭の良さゆえの、、皮肉にもそういう「頭脳」ゆえの、、残酷さ恐ろしさを
知っているからだ。
何年も何十年も日本を見てきた。
日本人は、、そんな。褒められるような民族じゃ・・・
とても優しく微笑む朧浪。
「そういう時、調子に乗るのが他の国々さ。
日本人は謙虚なんだ」
でも、たまには『俺サイコー!』ってなるのって大切な要素だよ。
日本を買いかぶり過ぎだもん・・・
こ、この人日本のこと分かってないのでは・・・
朧浪は言った。
「だから、俺はずっと、、日本人の女性と一緒になりたかった」
コウはその寂しそうな横顔を見た。
「朧浪さん、、私が、あなたの・・・。あ、日本人です。元、、ですが」
朧浪は言った。
「冗談ばかり言って振り回して申し訳なかったと思っている。
俺と一緒になってくれて、有難う」
コウ「・・・私、中国好きですよ。
頭が良くてふざけ好きで・・・」
デレデレするな!
コウはずっと不思議だった。
何故、、朧浪は寂しそうにしているのだろう?
コウ「か、関係者に、日本人の方でも?お祖母様とか、、」
朧浪「いや、俺は純中国人だ」
注釈だが、コウは「ルルリー」という各国の言語を話せる人外の力によって話している。
じゃあどうして。
コウ「どうしてそんな。悲しい顔を」
コウは悲しくなってきた。
朧浪の横顔は溟渤そのもの。
溟渤が悲しんでいるようで辛くて辛くて涙がいとも簡単に流れた。
何も言ってくれない。
みん、、「朧浪さん・・・」
コウは朧浪を抱きしめた。
コウは朧浪に比べて小柄なので、くっつく、と言った方が正しいが・・・。
朧浪はとても大事な大事な秘密を、、抱えているようだった。
コウ「(人外の私でも読めないなんて。心を閉ざしていて、どうしても読めない、、)」
海の遠くを見つめる朧浪。
コウ「(大事な人を海で失ったのかな。デリケートな問題だよね、そうだったら)」
ふわっ
風が吹いた。
ぎゃー!!!!!!
メイドたち、執事たちが一斉に浜辺の方を向いた。
・・・
海の風がびゅうぅぅぅ と吹いてる中・・・
すさまじい勢いでコウが朧浪を上下左右にシェイクしている姿が見えた。
どうやら朧浪が絶叫しているようだ。
・・・
オホホ
メイドたち、執事たちは微笑んで言った。
「お戯れになっているのね」
「いやはや、まぁ。若い、というのはいいものですなぁ」
「オホホ、さ、わたくしたちは奥に行ってましょう」
朧浪は、メイドたち執事たちを呼ぶ声すら、、封じられ、声がまともに出ない状態になっていた。
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