短編集Tanpenshu
まぼろしIllusion
- 第5話:美しい子
ミナ!おはよう!
ミナ「おはようトモちゃん」
ふたりはテクテク歩きながら教室に入って行った。
途端に教室の空気が微妙になる。
もじもじし出す生徒、怒りをあらわにしてガンッ!と壁を蹴る生徒。
ギャハハハハ!と大声で談笑していたのに、声が小さくなる生徒たち。
ハァッ
トモコは心の中でため息をつく。
もう何と言うか・・・不思議な容貌 を持つミナ。
みんな、青くなってしまうのだ。
余裕がある者は妬みで壁を蹴る。
人間離れした容姿に、初めは浮いていたミナ。
そこへズカズカと入り込み、仲良くなったトモコ。
何処かで見たことがある・・・毎回思うトモコである。
「(・・・あの人間離れした可愛さ、、何だっけ?)」
まーいっか
というのを、いつも繰り返すのであった・・・。
ト~モちゃん♪
休み時間にひつじの形の雲を見ながら呆けていたトモコ。
砂糖菓子を溶かしたような何とも言えない笑顔でミナが走ってきた。
ふと、
「(あれ?)」
パチッ
パチッ!
「ミナ、、今」
小さい声で言うトモコ。
ミナ「え、どうかした?」
パッと自分の後ろを振り返るミナ。
ガクッ
肩を落とし、下向くトモコ。
「い、今冬服だよね。夏服、、着ないよね、みんな・・・」
しいん。
「(な、何でなにも答えないの。こ、恐いじゃん)」
ふとタケルとの少し恐い体験を思い出すトモコ。
あっ!
パッを顔を上げるとトモコ。
ミナは普通にトモコを見ている。
「袖なしの女の子って
あなただったのね、、」
凄く美しい人形。
トモコの両親はいつも家にいなかった。
父親は仕事、母親は遊び好き。
兄弟もいない。
いつも買ってもらった「ミナ」という人形が友達だった。
寒いと思いながらうとうとしていた時、人形が勝手に動いて上着を掛けたことがあった。
袖がなくなっていて。
こわーい!人形動いたぁっ
と小さいトモコは泣き喚き、(起きた後)
そのまま人形を売ってしまったのだ。
み、ミナ!あ、、、
びな"・・・
口をパクパクするトモコ。
トモコ「うがっ、ううぅうう御免ねえぇえ
ずっと、、ずっと後悔して。
ミナ、、、」
えっぐえっぐとトモコは泣き出した。
「お、オカルト好きになったのも、、、、びな"の影響だよ、、、絶対!!」
ミナ「たくさん可愛がってくれたから、『念』を持つようになったの。
・・・タケル君、、幽体だったタケル君と契約したの・・・」
トモちゃんをたくさん笑顔にして。
友達になって
約束よ・・・
あの日のタケルの声。
『約束よ、どういう意味だ』
桜舞い散る校庭。
『でもホラ、占いって当たらないって言うじゃない?』
トモコ「(ふーんだ、てか大当たりでやんのー)」
ぐすっ
おい関ー!何泣いてんだよー!
「おーいみんな、関泣いてんぜ?」
近くの男子生徒がはやし立てた。
「失恋だよ、失恋」
フンッと鼻息をはいて
『サクラチル』を見るトモコ。
タケル、ミナ
「(・・・私の大切なまぼろし。あんたらのこと絶対忘れないから
まぼろしなんかじゃ、ないからね。
本当に、いい加減にしてよ う"っ)」
うとうと
そのまま
春眠暁を覚えず・・・
夢の中に入ってゆく、、トモコだった。
まぼろし。
彼女は
目が覚めた後、
忘れてしまうのだろう
まぼろしなのだから
まぼろし・・・。
中学生は多感な時期である。
ふとした瞬間に異空間に入り込んでしまうことも・・あるかもしれない。
気付いたらめぐり会い、気付いたらすっかり無くなっている・・・
心惑わすサクラの時期は
なおさら、、
(了)
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