読み切りOne-shot novel
メインメニュー >> 読み切り >> 読み切り:ヒューマン
ヒューマンHuman
- そのままで
機嫌悪いのって食ってないからなんじゃないのか
アンパンを食べながら次朗が言う。
「そういうのってあるみたいね
発展途上国の人とか、、どうしてるんだろうね」
慣れとかがあるのかな・・・
「それはあるな」もふもふ
瑠璃「でもあたし、30kg台になりたいの・・・」
次朗「気持ち悪いよ。ガリガリ・・・
そんな兄貴の機嫌取りたいんかよ」
瑠璃「取りたいんじゃないの。
好かれたいの。単純に」
だから
太ってねーっつってんだろ。ったく
むしろ痩せすぎだよ。太れよ。
ほら、
ゴソゴソッ
次朗は横に置いてあるコンビニの袋からパンを取り出そうとした。
「やめて!」瑠璃が制止する。
目の下にクマを作った状態で瑠璃は言う。
「折角2kg痩せたのに、また増えちゃう。やめて」
次朗「いい加減にしろよ。病院行きだぞそれ」
瑠璃は「太朗」という次朗の兄が好きだった。
正確に言うと腹違いの兄なのだが・・・。
「兄貴はいちいちこだわり過ぎなんだよ。女の容姿に。
髪は巻き髪が良いとか。ピアノ習ってるのが良いとか」
瑠璃はフラフラしながら言った。
「あたしは、、どれも駄目だから、、せめて痩せたいのよ」
くっだらねぇ!!
次朗は大きめの声で言った。
ふたりは昼食時、教室のベランダで、ベランダの手すりに寄っかかって話している。
「あんなののどこが、、・・・類は友を呼ぶってやつだな
変なのは変なのに寄るっていう」
「馬渕先輩は素敵だから・・・」
馬渕とは太朗と次朗の苗字である。
彼女はこんにゃくゼリーとお茶しか摂ってない。
「(まともなやつはまともなやつとくっつくんだよ)」
次朗は心で毒づいた。
「(ああいう兄貴に惚れてる時点でこいつも・・・)」
太朗は「女は30kg台じゃないと認めない」と言っている。
ただでさえ子供を生む「女性」が痩せているということは
それだけ努力をしている。
=脂肪がつきやすいのに頑張って努力をしている
・・・と言っているのだ。
「だからあたし、馬渕先輩に『可愛い』って言われたいの」
「(・・・太ってねーっつってんだろが。むしろ太って胸増やせよ)」
次朗はいつもイライラしていた。
・・・ん?
部活の帰り、うっすら暗くなった時間に、瑠璃に会った。
泣きそうなすっごいくら~~いムードを漂わせている。
普通だったら声なんて絶対に掛けない(掛けられない)空気をまとっている瑠璃に、
次朗はテクテク近付いていった。
(少し恐かったが)
・・・
「(・・・)」
声を掛けたいのに、声を掛けられない。
振り向かないのに瑠璃が言った。「あたしさ、馬渕先輩に振られちゃった」
はぁっ
次朗がため息をつく。瑠璃にバレないように。
「・・・そ。で?諦めついた?」
ドライな声。
「30kg台の彼女が出来たんだって。
痩せてても、胸が大きくないと駄目みたい」
「・・・」
何て答えりゃいいの。次朗は思っていた。
「最中に、(告白している最中に)馬渕先輩の彼女が来たのよ
すっごい可愛い人だった」
最高にしょぼ~んと暗黒モードを漂わせる瑠璃。
「いーじゃねーか。そんな奴に振られて。
そんなのに、万が一気に入られて。それでどーすんの」
「だって好きなんだもん」
瑠璃は少し涙ぐんでいるようだった。
ちくん
次朗の胸が痛む。
「劣化したら捨てられるぞ」
瑠璃「それでもいいもん・・・」
笹岡
次朗が呼ぶ。
笹岡、とは瑠璃の苗字だ。
「俺じゃ駄目?」
へ?
という感じで瑠璃が顔を上げる。
・・・
・・・
し~ん
「あたし・・・太ってるし・・・」
バシン!!
次朗はバッグで瑠璃を思い切りぶったたいた。
当然だが瑠璃は吹っ飛ぶ。
そのまま、バタッと倒れる瑠璃。
「いい加減にしろよ
気持ち悪いんだよ
俺がわざわざてめーみたいな自信のない女を気に入ってやってんだ。
ちょっとは自信持てよ」
突然のことに呆然とする瑠璃。
「(バッグでこんなことするなんて・・・)」
そのまま、「来い!」と手を引っ張り、
でか~~い「味噌ラーメン専門店」に連れて行った。
「ここあんま旨くないけど近いからな」
ずるずるずるずる
ふわん
美味しそうな味噌ラーメンの香り。
夢心地の中、瑠璃はお上品に、、こわごわと久し振りのラーメンを食べた。
夜の道。
テクテクテクテク
「馬渕君、、御免ね」
次朗「何が」
「あたし、どうかしてた」
「ま、気にすんな」
「あたし、そのままでいいかな・・・」
「だから!・・・いや、もっと太って胸を、、いや、、そのままでいいよ」
「馬渕先輩はね、好きだったんじゃなくて
単純に自分をけなす人が、、『けなす人に惹かれちゃっただけ』みたい」
親がそういう親だといつの間にかそういうタイプの人間に惹かれてしまうらしい。
悪くても何か問題があっても、、それでも親に似ると惹かれてしまう。
哀しい人間の磁力的作用である。
「そういうんだと思ってたよ。
でもま、自分で気付くのはいいことだ」
「馬渕君。・・・『俺じゃ駄目?』って い、言ったよね」
「・・・そのままのおまえならな。気に入られたくて痩せるとか今の自分を変えるとか無ければな。
ただ、俺がこうして欲しい、って頼むことは変えてくれると嬉しい」
バッと次朗を見る瑠璃。
「な、何?」
「もっと、自信を持て。
そのままのおまえがいい。
好かれるための努力なんてなんもしなくていんだよ」
気に入られるためには努力しなきゃいけないと思ってたの・・・
涙声で、途切れ途切れに言う瑠璃。
「俺とくっつけば『類友』、、になれるぜ
んなこと気にしない奴にな」
「自分に自信持てるようになる?」
そこは分からない。
俺は自惚れ屋じゃないから
・・・と次朗は心で思う。
いいから、類友になろうぜ
「ありがと」
誰もいない空き地に逃げ込み、座り込んで泣く瑠璃。
「有難う・・・」
ずっとそればかりを繰り返す瑠璃。
「良かったな」
それだけを言って
ずっと何も言わず、瑠璃の後ろ姿を見て、やはり瑠璃に気付かれないようにため息をつく次朗だった。