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読み切り:ホラー
ホラーHorror
- 波に飲まれて散る
美智子は雇われ歌手であった。
有名人たちの乗る大きな船、で歌う歌手。
本来歌うはずだった人が肺の病気になり、美智子が歌うことになった。
煌びやかな空間。
普段の空間は全部嘘で、こっちが本物なのではないかと思われる、、
淡い空間。
とてもとても大きな、豪華客船。
キレイだけど、海の中にぽつんとあるのよね。
などとそっと考える美智子。
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美智子「え?」
とある権力者に声を掛けられ、答える彼女。
「真樹さん・・・ですか」
男「ああ。いい女だったが、ちょっと地味だった」
・・・
20代前半だろうか?
にしては雰囲気は50代↑くらいの恐ろしいオーラを持った男。
長谷部(はせべ)と言った。
真樹、とは長谷部の愛人のひとりで、元々歌うはずの歌手だった。
後ろでは「長谷部さんよー」「素敵ー」という声だとか
「え?いいの?廊下で話しちゃ駄目でしょふつー」という男性陣の声が飛び交う。
廊下は廊下というより「ホール」というくらい大きかったのだが
「俺の部屋に」と長谷部は美智子を連れて行った。
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あやしい空気が全くしなかったので彼の部屋に入る美智子。
部屋はとても広く、驚く彼女だったがすぐに真顔に戻った。
美智子「真樹さんは・・・」
長谷部「ちょっと弱々しすぎた。飽きてたところだったから
君が来て丁度いいと思った」
美智子「・・・」
テーブルに座っているふたり。
長谷部は自分だけワインを呑んで、美智子には何も飲み物を渡さなかった。
そして長谷部はゆっくりと立ち上がり、窓の傍へと行った。
「・・・実はこの船に妙なうわさがあってね」
過去には何の事件も事故もないのに、人間ではないものが出るらしい。
今までのやり取りは全部うそで、本題はこっちだった、と語る。
真樹がある曲を歌うと必ずその幽霊が出るのだ。
出る場所は決まっていて、船の中央の大広間だ。
この霊を見ると必ずと言っていいほど、事業に失敗し、病気にも遭い
散々な目に遭う。
怖いもの知らず、というより怖いものが自ら逃げていくほど怖いオーラを持った長谷部。
当然と言えば当然。
幽霊など信じていなかったし、いたとしても「生きてる者に刃向かうのか」と
目を見て言えるだろう。
長谷部「さすがに困ってね」
全然困ってなさそうな声。
真樹は特にその「あやしいもの」に関わるような過去は持っていない。
ある曲、をこの客船で歌った場合のみ、そういうことになる。
霊のうわさは一部でしか知られておらず、
何故かあまり知られていなかった。
長谷部「・・・霊などいてもいなくてもいい。
ただ俺の邪魔になるものなら、何かしたい」
黙る美智子に、
供養、御祓いの類は散々した、霊能者?には視てもらった、
ありとあらゆることはした。
と説明する長谷部。
今回、5日間ある中で3日間、一度も霊は出ず、美智子に何か不思議な力でも?
と声を掛けたのだ。
「コーヒーを頂けますか」
美智子が言う。
「構わないよ、自分で淹れて」
と長谷部。
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コーヒーを優雅に淹れ、
席について話す。
美智子「・・・その幽霊さんは女性の方なのでしょうか・・・」
ん?とした反応をする長谷部。
「・・・言ってあったかな?」
美智子「いいえ。ただ、女性のような気がして・・・」
長谷部は合理的に手早く聞いた。
「何か感じたか?奇妙なものとか雰囲気とか」
・・・
「全くありません」
本当にないのに、隠しているような物言いをする美智子。
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何かを感じたら、手掛かりにしたいので伝えて欲しいと言って
長谷部と美智子は別れた。
そんなに困るのなら、別の客船に乗ればいいのに、
気付けばこの船に乗っているのだと言う。
特に思い入れがあると言う訳でもないのに。
気付かなかったの?
その幽霊は私。
何かの事件で殺されて、海に棄てられた。
霊となってさまよっていたら、この船に乗っているあなたを見て・・・。
大広間に現れたのはあなたを見たかったから・・・
そしてずっとこの海域にいたわ。
女の方がいることが分かって、悲しかったけど諦めた。
のに。どうして勝手にこういうことをしてしまうのだろう。
うわさが広まらないのは、「そんなの迷信に決まっています」と常に周囲の人間に言いまくっているから。
If I should stay, I would only be in your way.
このまま貴方のそばにいても、
私はきっとあなたの人生の石ころ
・・・
どうして
ザザーン....
乗客「いいよなー ボディガード」
「ウィットニー・ヒューストンだっけ」