読み切りOne-shot novel
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ノンジャンルNon-genre
- 消失しても
メリは、大きな家に住む16歳の少女。
誕生日に友人の怜(れい)からドールハウスをもらった。
「わぁっ、すごく豪華。高かったでしょ?」
「そりゃもう、、何万、、いや。まぁね」
ビクッとする
メリ「ちょっと、そんなにするの?誕生日ってだけで。
悪いわ!
っていうか重いって。
勘弁してよ怜」
あ~あ、という感じでメリは肩をすくめる。
怜「もぉ~。折角買ったのに。
お礼とか気にしないでよ。素直に喜んでよー ふんっ」
両腕を頭の後ろに組み、つまらなそうに言う怜。
お年玉を貯めていたものをはたいて買ったドールハウス。
怜「(何か、不吉な気がするんだもん
だから、思い切って良いのを買わなきゃって)」
それにしては高すぎる。
怜も自分で「何で?」と疑問に思っていた。
メリ「わぁー冷蔵庫、いっぱい入ってる(すっごい嬉しそう)」
・・・
怜はじーっとその様を見つめた。
「(わざとキッチンの、、「それ」が凝っているものを選んだのよ)」
メリは「箱」が好きだった。
「オルゴールとか、普通のケースとか」
何でなのかしら。
ただの好きとは違う、、何だろう。異種な感じ、、
それを超えて不気味な感じがする・・・
怜はいつもそう思って心配していた。
ある、テスト最終日の午後。
皆は早々と下校し、ガランとした空気が広がった。
メリは何故か沈んでいる。
(メリは本名自体、片仮名表記です)
あんまり沈んでいるので、この後もしかして「戻ってこなくなるようなこと」でもするのでは?、、と心配した怜はメリの身を案じて一緒に帰ろうと提案した。
ハッ
メリは驚いたように顔をあげた。
平谷薫(ひらたにかおる)。
その類稀なる霊能力で学校中の有名人だ。
メリは少し早足で薫の元へと歩いて行った。
追う怜。
メリは、怜からもらったドールハウスを母親に粉々に壊されたのだ。
メリ「あの優しいママが・・・」
落ち込んでいたのはそのためらしい。
怜は「嘘でしょ?」と信じられなかった。
可愛がりすぎ、甘やかしすぎ、蝶よ花よと育てているあの優しそうなお母さんが・・・。
薫は聞いた。気味悪い笑みを浮かべながら。
薫「どうしても知りたい?後悔することになるけど」
メリ「構わないわ」
うっさんくさっ、腕を組み呆れながらふたりを見守る怜。
うわ・・・
次の瞬間。
少し雰囲気の違う、メリの家に何故かいるメリと怜。
メリ「キッチン?」
キョロキョロ見回す。
あ・・・
メリがわなわな震えてる。
見ると、あのドールハウスの冷蔵庫そっくりな冷蔵庫がある。
怜「あれ?等身大の、、」
冷蔵庫に向かう怜。
メリはしゃがみ込み、小さな声で言った。
「お兄ちゃん・・・」
メリに兄はいないはずだ。
「お兄ちゃん、、」
昔、かくれんぼで冷蔵庫の中に隠れていて、そのまま・・・
ということがあったらしい。
元々風邪をひいて肺炎状態になっているのにそれを隠し、無理をしてメリと遊んでいて、そこから出る前に失神状態になり、、・・・。
・・・?
兄の逝去を受け入れられず、メリはそれまでの記憶がなくなってしまった。
兄の名前は「ポー」と言った。
フジテレビの「ポーとメリーの大冒険」が大好きな両親が付けたのだと言う。
・・・
メリから全てを聞かされ、唖然とした瞬間、、、
「あ"っ!」
目の前に、長身の男性とメリが抱き合っている姿があった。
・・・
す、すごいキレイ・・・
夢なんだろうけど
素敵な夢・・・
ハッ
キョロキョロッとする。
教室の隅で座っている怜。
辺りは真っ暗だ。
ごろ~ん、と床に寝っ転がって
「(ドールハウス買って、贈ったのはもう会えないのを予感して買ったのかー)」
会えないって分かってたから・・・
「(・・・生きていたらお兄さんはああいう風になってたってことね)」
連れて逝っちゃったんだ。メリが来たから・・・
などとトロ~ンと考えていた。
その先には暗い暗い道があるのを知っていた。
何となく。
そして二度と戻って来れないことも。
何となくだ。
潜在意識の中で・・・。
その奥に走っていって、何かを見つけたい。
消滅してもいい!
怜「・・・にーさん(イントネーション変)に負けた訳ね。私・・・」
薫「そういうことになるね」
グランドの上の見晴らしの良い草っ原。
今は『唯一メリを知っている者同士』の怜と薫が「うさぎのほっぺ」パンを食べていた。
メリの戸籍は元々無かったことになっていて、誰も「そんな人知らない」と言った。
家に行っても森林と林の中間ぐらいの土地が広がっているだけだった。
怜「どーやって送ったわけ。あの時。私とメリのこと」
薫「メリさんの潜在意識の奥の、更に奥の方へ。
君も送った。
メリさんが連れていかれるような気がしてね」
怜「結局、、連れていかれちゃった。メリ。
夢みたいだったわ
もう、いないのね・・・」
・・・
箱、好きだったのって。冷蔵庫が元になってたのね。
冷蔵庫開けて、お兄さんを探してた・・・
あの日、母親はドールハウスの「冷蔵庫」を見て
取り乱して壊した。
あの冷蔵庫にそっくりだったから。
怜「(そうよね。おそらく・・・)」
薫は言った。
お兄さんはメリさんが大好きだった。
「だからいつも箱を開けるメリさんの、箱に入りたいと思っていた。
「僕がその『本当の箱』を提供し、
彼女は開けたんだ」
彼女を待っていたお兄さんは
彼女を抱きしめた。
「もう、ふたりは・・・」
うん・・・
小さな声で言う怜。
空には、あの日の美しいポーとメリの姿の雲が浮いていた。
ずぅっと
空を見ているしかなかった。