思わず顔をそむけてしまう。
女たちはそれでショックを受けて走り去ってしまう。
それでいつもクライブは安心するのだった。
それは、、子供が病気の時に思わず泣いて抱き上げる女性を見た時も、、
誰かと喧嘩をして泣いている女性を見た時も、、
同じであった。
ウッ という感覚と共に、クライブは走り去る。
あの感覚はなんだろうか。
ショックを受けて本当に哀しそうに涙を流す、髪の長い女性の記憶が胸をよぎる。
鮮明に!
あれは黒髪の女だった。
子供の頃からこの記憶はあった。
あの涙を思い出すたびに、嗚咽を伴う罪悪感にさいなまれるのだった。
他人の記憶が、、自分の中に流れ込んでいるのではないのだろうか。
自分は女と一切関わっていない。
こんな記憶が出来ようはずもない。
似た記憶だって全くない。
母への憎悪が生んだ、自分の幻・・・?
では何故涙なんか流しているのか。
あれは衝撃を受けた顔だった。
良く夢に見る、レンという少女に関係があるのだろうか。
しかし彼女は金髪、件の女性は黒髪である。
歳も違う気がする・・・。
レンという少女に対する気持ちとは違う、何とも言えない感情。
罪悪感を取り払った時にそれはあらわになる。
抱きしめたくなるような、甘い甘い感情。
女なんて肉の塊に過ぎないと思っている自分には全く似つかわしくない感情である。
そういう気持ちの後には、ブルッと鳥肌が立つ。
そういう気持ちが眠っているからだろうか?
クライブは黒髪の女性を見るとドキリとしてしまう。
そして泣いているのを見たくないゆえに挙動不審に走ってしまう癖がついてしまっている。
やめてくれ!
俺は何もしてない
頭を両手で抱える。
キレイな黒髪
芸術的に風にたなびいている。
ぽた・・・
真珠のような・・・
いや 小さな満月のような
キレイな キレイな涙
畜生!
壁に拳をぶつける。
あの女!
気持ち悪いんだよ!
ぽと・・・
あの女の涙。
いつもではない。
たまにだ。
本当にたまにしか、こういう現象にはならない。
来る、、と思った時、 めまいがする。
駄目だ!いけない
それで、、
・・・。
「(何なんだあのクソ女は・・・)」
クライヴはあの女を、、
振り払おうとしている裏で、何ともいえない吸引を感じていた。
・・・小さい頃の記憶で、喧嘩していた女性を偶然見て、
それで印象に残っているのだろうか。
「やめてくれ!
俺は何もしてない」
この記憶は何なんだ。
最近気付いた。
お兄ちゃん。
あの少女の目。
あの黒髪の女にそっくりだと言うことを。
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