「確かに乱暴かもしれないけど、乱暴なのは強さの証でもあるし、
『強い天皇像』とも言えるよね」
という書き手のこっそりとしたアピールがある可能性が有ります。
というのも、天皇像を惜しげもなく悪く書くことで、
「こんな天皇でも『そういう方なのだな』と受け止めて欲しい」という意図をかすかに感じますし、
有りもしない美談を書いて、理想の天皇像を書いて、偽物の天皇の姿に対し読者が崇め奉っても虚しいだけなので、
「良い天皇であっても悪い天皇であってもそれはそれ、と受け止めて欲しい、嫌わないで欲しい」と言っているような気がするのです。
その証拠として雄略天皇は横暴な天皇なのですが、何処か憎めない所もあるのです。
そういう部分も割と描かれています。
これは個人的に感じたことではありますが…
あと、「雄略天皇」という響き、男らしくて格好良いですよね。
稗田阿礼と
太安萬侶は、
ありのままの天皇像を描き、読者に愛されるようにという意図があったのかもしれません。
真相は分かりませんが。
さて、
雄略天皇は、
泊瀬の
朝倉宮というところで天下をお治めになりました。
そしてひとつ前のページに出て来た
若日下王(ワカクサカ)を皇后に据えます。
そしてやはりひとつ前のページに出て来た
韓比売も妻に迎えます。
気に入った女性に次々と声を掛け、次々と妻にするので、たくさんのお妃がいたのですが、
生まれた男子は
白髪命ひとりでした。
もうひとり、
若帯比売命という女子もいましたが。
男子ひとり、女子ひとり。です。
シラカは生まれた時から髪が白髪で体がお弱い方でした。
(ここで何か暗雲が立ち込めている雰囲気が…)
...時間は戻って...
雄略天皇が、皇后であるワカクサカとまだ結婚していない頃 ―
山の上から国内をご覧になっていた雄略天皇が、
天皇の宮殿の造り ― 屋根の上に
堅魚木を乗せて造る技法、で屋敷を立てている家を発見し、
「天皇の宮殿と同じ造りにするとは!火で焼き払ってしまえ」と激怒しました。
家の主は
「御免なさい。卑しい身ですから頭も弱くて、何も知らずに作ってしまいました。
屋根も造り直させます。
この可愛い白い犬も献上致します」
と、白い犬を献上しました。
すると雄略天皇は白い犬の可愛さに心を奪われ、秒で許しました。
「きっとこの可愛い犬をワカクサカに、結納の品として贈れば、きっと喜んでくれるだろう」
とワカクサカに求婚の証として白い犬を贈りました。
このやり取りの末に、ワカクサカは(ひとつ前のページでは色々あったけれど)
無事雄略天皇と結婚し、皇后になったのでした。
Episode1:引田部の赤猪子
さて、少し前に、国中の女性に声を掛けて妻にしまくった、という説明がありましたが、
引田部の赤猪子(ひきたべのあかいこ)という、超絶美少女を発見し、
「おまえは誰とも結婚せずに、いずれは俺の妻になれ。その時になったら迎えに来るから」と
一方的に約束をしました。
赤猪子はその言い付けを守り、
ずっと、八十年も、雄略天皇が迎えに来るのを待ちました。
勿論、雄略天皇は自分の言ったことを忘れていました。
赤猪子は年老いた後に勇気を出して
雄略天皇の元に来ました。
一生懸命用意した花嫁道具らしき物を持って、
「ずっとお召しの日を待ちながら、ずっと長く待っていましたので、こんなに年老いてしまいました。
天皇様の言い付け通り、誰にも嫁がずに待っていた、ということだけをお伝えしたくて…。
身分の低い者から行くのは礼に反するので今まで来れずにいましたが…」
と礼儀正しく言いました。
雄略天皇は大変驚き、
全く覚えていない無責任な自分の発言ゆえに、この女性の女性としての人生を台無しにしてしまったことを深く反省し、
とても悲しみました。
結婚しようにも、あまりに年老いているし、
自分自身も年老いている身なので結婚出来ず、そのことを悲しみ、歌を詠まれました。
(意訳)
触れることも許されない、神聖な乙女よ、
貴女が若い時に抱けたら良かったのに
私はすっかり老いてしまった
それを聞いた赤猪子は嬉しくて感涙し、
返歌を返しました。
(意訳)
準備だけいっぱいしたけれど、
準備だけになってしまいました
若い人が羨ましゅう御座います
雄略天皇は、赤猪子の忠義な心と神聖な魂に感動され、
たくさんの品物を賜って返しました。
Episode2:一言主大神
一言主大神 → ひとことぬしのおおかみ、と読みます。
ある日、雄略天皇が
葛城山の上にお登りになりました。
その時、猪が出て来たので、矢で射ました。
猪は怒って唸り声をあげ、ドドドッと寄って来ました。
...雄略天皇は、情けなくも、怖がって木の上に登って逃げました。
(可愛いかもしれない)
また別のある日、雄略天皇はやはり葛城山にお登りになられました。
その際には、行幸(天皇のお出掛け)のスタイルでお出掛けになられたのですが、
同じような行幸スタイルの一行に出会いました。
雄略天皇は訝しがり、
「あれは天皇の行幸の様子である。
天皇は俺ひとりなのに、何故同じ『行幸集団』がいるのか」と
怒り、矢を放とうとします。
名を尋ねると、「
一言主大神(ヒトコトヌシ)」だと言います。
この神様は、いわゆる
言霊の神様と思われます。
悪い事も善い事も一言で言い放つ神、とのことでした。
雄略天皇は青ざめ、平謝りしました。
「申し訳御座いません。まさか神様でしたとは。
御姿を直接見ることが出来るとは思いませんでした」
と言い、
弓矢、服を全部脱ぎ、家来の服も脱がせ、
それらを拝みながらヒトコトヌシに献上しました。
ヒトコトヌシとその一行は、雄略天皇が皇居にお帰りになられるのを、丁重にお見送りしたとのことです。
…猪の下りは、
「怖そうに見えて、小心者?のような所もあるし、『怖い』というイメージだけではないよ」、という
説明なのかもしれません。
ヒトコトヌシとのやり取りは、
「自分が一番偉い!みたいな天皇のように見えるけど、神様の凄さ神聖さはちゃんとわきまえてるのです」という
メッセージが含まれているのかもしれません。
Episode3:天語歌
天語歌 → あまがたりうた、と読みます。
ある日、大きなケヤキの樹の下で、酒宴が開かれていました。
とある
采女(侍女)が、天皇に捧げる御杯を高く掲げて、
天皇に献上しました。
するとその時、たまたま運悪く、上からケヤキの葉が落ちてしまい、
その葉が、天皇に捧げる御杯に浮かんでしまいました。
「無礼者!」と雄略天皇は怒り、
即座に刀で采女の首を斬ろうとしました。
采女は、
「お待ち下さい!言いたいことがあるのです!」と
言いました。
→ そして急に、御杯に落ちた葉、という状態に対し、
雄略天皇を褒め称える歌を即興で詠んだのです。
纏向の
日代の宮は
朝日の 日照る宮
夕日の 日がける宮
竹の根の
根足る宮
木の葉の
根延ふ宮......(以下略)
纏向の宮は、12代天皇の景行天皇の宮。
それは朝日が照り、
夕日は輝き、
竹の根が根を張り、
樹の根が根を張り巡らせる、宮
その、多く茂ったケヤキの枝は、
上の方は天上を、
中ごろ辺りは東国を、
下の辺りの枝は西国を覆っております。
そして上の葉から中の葉に触れ、
中の葉が下の葉に触れ…
そして、その葉が今、盃に、
まるで浮いた脂のように落ちました。
そのさまは、天地開闢の、
イザナギとイザナミが「コオロ、コオロ」とかきまぜて島を創ったさまに似ているではありませんか。
この畏れ多い様子は何を意味しているのでありましょう。
貴方様が日の御子だという、何よりの証拠で御座います。
あまりに素晴らしい歌に、雄略天皇は感動し、采女を即許しました。
それだけではなく、多くの褒美を与えました。
(温度差凄いなぁ)
皇后もこの歌に感動し、歌を返しました。
その皇后の歌に対し、今度は天皇もその歌に応え、歌をお詠みになりました。
以上の三首のような歌の形態を、
天声歌と言います。
Episode final:業
業 → ごう、と読みます。
たくさんの妻を娶ったというのに、結局雄略天皇の跡継ぎたる男子...男の子は
白髪命ひとりだけでした。。
そしてそのシラカさえ、体がお悪く、結婚もせず子も成しませんでした。
この後、別の皇族が跡を継ぐのですが、
要するに、雄略天皇系統はここで断絶してしまった、、ということです。
今の時代と違い、この頃は『男子』にとって一番大切なことは、名を成すことでも雄々しく生きることでもなく、
子孫を残すことでした。
(動物と一緒です。そういう時代といいますか)
まして、天皇ともなれば、この世で一番、子孫を残さないといけない存在...と言っても過言ではありません。
雄略天皇はその『罰』を受けたのかも...しれません。
雄略天皇は、齢百二十四歳で崩御されました。
跡を継いだシラカが
第22代天皇、清寧天皇として即位しましたが、
妃も娶らず子も成さないまま崩御されました。
...こうして、後継者がいなくなり、緊急の事態に陥ります。
ここで出て来るのが、前ページで出て来た、
イチベノオシハの息子ふたりです。
兄弟のうち、弟の方が激しい復讐の炎を燃えたぎらせていました。
(やはりここでも、頼りになるのは末の子の方のようです…)