実兄と実妹の件で非常にお気の毒ではありましたが、
まだ兄弟による苦労は有りました。
実弟の
大長谷命(オオハツセ)が
ヤマトタケルのサイコパス振りを10倍にし、
良い部分だけを抜いたようなとても狂暴な弟だったのです。
お嫁さんを探して結婚させれば、落ち着くだろうと
弟のためにお嫁さん探しをしました。
兄と妹の悲劇を見たこともあり、
早々に男女関係で面倒なことが起きないように、との配慮もあったのかもしれません。
そこで
若日下王(ワカクサカ)という美しい女性をお嫁さんとして迎え入れようとしました。
系図
ワカクサカの兄、
大日下王(オオクサカ)は、
「そちらの大長谷命に嫁がせるためだけに、今まで妹を誰にも嫁がせずにいたのです。
大歓迎です。むしろ妹を嫁にもらってください」
と喜んで、この申し出を受け入れました。
言葉だけの返事というのも味気ないので、と
承諾のしるしとして、豪華な冠を送りました。
が、双方の取り次ぎをしていた家来が、この冠のあまりの美しさに
「いいなこれ…ネコババ(死語)しよう」と思い
こっそり自分の物にし、
安康天皇には
「うちの妹を、あなたの弟のような乱暴者に嫁がせることなんて出来ない」と言って断っていました、と嘘の伝言をしました。
安康天皇は怒り狂い、即座にオオクサカを攻め、滅ぼしてしまいました。
...色んな解釈が出来るかもしれませんが、
例え乱暴者でも、「こんなこともあろうかと、妹を誰に嫁がせずにいたのです」と言わせるほど
実はオオハツセは良い男なのかもしれませんよ、という隠れフォローの意思と、
例え天皇であっても、ちゃんと話を聞かずに一方的に攻め滅ぼすと罰が当たる、という解釈が出来るのかもしれません。
そうです、これから安康天皇に暗雲が立ち込めます。
似た者兄弟なのでしょうか。
兄と妹が実の兄弟なのに本気の恋愛をしたり、
末っ子はサイコパスだったり、
その中間子である安康天皇はちゃんと確認もせずに人を攻め滅ぼす…。
ここの辺の流れをちゃんと頭に覚えさせるために、
「
允恭天皇の子どもーズ...この列の兄弟はやばい」とさりげなく覚えておくと良いと思います。
安康天皇はオオクサカを攻め滅ぼした後、オオクサカの妻を自分の妻にしてしまいました。
後になって話を聞くと
安康天皇は事実確認をろくにせずに短気を起こして攻め滅ぼしてしまった、ということが分かり
深い悔恨の念に駆られた安康天皇は、せめてオオクサカの妻や子供を大切にしようと誓うのでした。
…が、例え天皇であっても、悪いことをしたら命を落とすという、世界のルールがあるのでしょう。
オオクサカの子供、
目弱王(マヨワ)は、まだ小さいながらもこの事実を知ってしまいます。
「自分の実の父は、理不尽な理由で安康天皇に殺された…」
ショックを受けたマヨワは、まだ子供ながらも義憤に駆られ、
ある夜こっそり、安康天皇を弑してしまいます。
そして首を落とし、家来の
都夫良意富美の屋敷に逃げ込みました。
安康天皇の弟、オオハツセは大変怒り狂います。
(また怒ってる)
「兄上が弑された!…例え子供であろうとこれは処刑しなければならない。
なにせ天皇が弑されたんだ!」
オオハツセは、兄の
黒日子王と
白日子王に相談しました。
クロヒコもシロヒコも、
「少し落ち着け。子供が天皇を殺すとか急に…」と
あまりの出来事に頭が追い付かず、冷静になれとオオハツセを諭そうとします。
その態度を「兄のくせに頼りない」と怒ったオオハツセは、どちらの兄も即座に殺してしまいます。
(またすぐ殺す…)
そのまま、オオハツセは、マヨワが逃げ込んでいるツブラノオホミの館に攻め込みます。
オオハツセは少し前に、このツブラノオホミの娘、(
韓比売)と婚約したばかりでした。
そんなおまえとは争いたくない、速やかにマヨワを引き渡せ、とオオハツセは迫ります。
ツブラノオホミは、
「身分の高い
王様が、
わたくしのような卑しい身分の家に逃れ、わざわざわたくしを頼って下さったのです。
臣下が皇族の宮殿に逃れた例はありますが、皇子が臣下の者の家にお隠れになった例は
未だ聞いたことが御座いません。
どうしてわたくしがマヨワ様をお見捨てすることが出来ましょう」
...と、引き渡しを拒否しました。
それを聞いたオオハツセは、即座にツブラノオホミの屋敷に矢を放ち、攻め滅ぼしてしまいました。
…その争いのさなか、マヨワは自分を殺せと命じ、
ツブラノオホミはマヨワを刺し、自分も自害しました...
急のことで頭が回らなかったとはいえ、
激情を抱き、「落ち着け」と諫めた兄ふたりを残酷な方法で殺し、
ツブラノオホミと共にマヨワを即座に殺してしまったオオハツセ。
それだけでも充分危険人物なのに、
自身が天皇になるのに邪魔な位置にいる
市辺忍歯王(イチベノオシハ)を騙して殺そうとしました。
ある日イチベノオシハを狩りに誘い、獲物を矢で射る振りをしてあっさり殺してしまいました。
※イチベノオシハは恨まれるようなことは何もしていません。
そのまま、イチベノオシハは体を切り刻まれ、その遺体は飼葉桶に入れられて、地面と同じ高さに埋められました。
...古墳だとかは、尊い人の御体は高い位置に置かれます。
...地面と同じ高さ、というのは、それだけ見下している、という意味です。
殺された
イチベノオシハの息子ふたりは、自分たちにも危害が加えられる、と早々に逃げました。
そして
播磨国に逃げ延び、身分を隠して馬飼い、牛飼いとして暮らしました。
さて、このオオハツセは、
21代天皇、雄略天皇として即位しました。
雄略天皇、とは
漢風諡号です。
漢風諡号とは、生前の行いに基づいて死後に贈られた、中国風の贈り名を言います。
漢風諡号そのものが制定されたのは、ずっと後の時代になりますが。
それが「仁」とか「賢」とか良い感じの漢字が使われていると『良い天皇』とされ
「武」とか「雄」と付けられると、暴虐な天皇とされています。
このオオハツセ...雄略天皇は、「雄」がついていますし、「略」は「
略取」などの例に使われる漢字です。
そんな雄略天皇は、即位後も色々とヤンチャをしていきます。
良いエピソードも有ります。
これだけのことをしたのだから、天罰が当たります。
ですが、例えば暗殺されるとかではなく、
何と言うか...「男として」、もっと言うと「天皇という存在として」最も屈辱的な罰を受けます。
ここまでの系図の説明