小さな世界 > 第6章「休息」
もの、も
バルコニーテラス。
眼下には虎原海が広がっている。
自分の椅子に戻っていく威俐の背中を見て、ガタッと立ち上がって近付く妃羽。
威俐様、私はこういうの、
『だから。何』
と言われるものだと思って。
「聞いてくれないって言うか・・・」
ざざーん.....
カタッ
少しテーブルに手をぶつけて、
妃羽はジュースのコップを取った。
波の音が優しいBGMのように聴こえる。
強い口調で妃羽が言う。
「何も言い訳が出来ないから、何も言わないのかと思って」
妃羽は、物質に偏る実業家としての威俐の面を非難した。
庶民の妬みかもしれないけど、でも確実にそういう部分はあなたにある、
友映と礼法といた時の方が安心出来た。
お金のことばかり考えているというより、
「人間を操ってる気がする!」
・・・そんなことを言った。
全てを言い終えて、少し息が上がった妃羽。
汗をかき、それどころじゃないのに
「(お風呂早く入らなきゃ・・・)」
などと真剣に考える彼女。
ふわり、と威俐の髪が風になびく。
信じられない、という顔をして言う彼だ。
「そりゃだって・・・実業家なんだから」
普通ならドッと疲れるところなのかもしれない。
さっぱりした顔の威俐が説明した。
「お金を扱う、人を使う、操る。
・・・そんなの当たり前だ。
まさか人を奴隷のようにこき使うとでも?
それとも、、お金のために手段を選ばないとでも?」
後半、腕を組みながらくだけた顔でじ~っと妃羽を見る彼。
妃羽はすぐに下を向き、口を手で押さえ、考え込んだ。
・・・
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ふたりはデッキチェアにくっつけ合って座った。
ふわふわと風で妃羽の髪が舞う。
リンリンリン.....
ベルのようなものが放置されていたのか、
風で転がって音を鳴らしていた。
とうとう白状する彼女。
「妬みでした。庶民の・・・。・・・はい」
こんな煌びやかな世界があるなんて・・・
あることは知っていたけど、
いざ触れると分不相応すぎて、自分がとてもみすぼらしく思えて
元の生活に逃げたくなったと・・・。
威俐への物質主義云々の批難は、全部八つ当たりだったと。
とつとつと話しだした。
「裏切られるのが怖いんだと思います。
・・・失うのが怖い。だから、」
妃羽の言葉を遮り、
「それはないと言ってるだろう、まったく」
威俐が怒ったように、そしてハッキリとして言った。
だから常に、離れる材料を作って、
威俐と離れたがろうとしていたのだろう。
それだけ、威俐のことが好きなのだ。
失うくらいなら離れてしまえばどんなにラクだろうと
・・・そんな風にいつも妃羽は考えているのだ。
普通に憧れるだの、なんだの、そういうものとは次元が違うのだ。
憧れの有名人だの芸能人が目の前に来て、笑顔で握手してサインを書いてくれたら
きっとものすごく嬉しい。
しかしそういうレベルではない。
例えを言うならポスターを偶然見ただけでビクッとしてしまう(←ウザッ)レベルなのだ。
デッキに飾ってある可愛い猫の木彫りの小物。
じーっ、と妃羽を見ているように彼女は感じた。
立ち上がって威俐が言う。
「でも何でそんなこと考えちゃうんだろうな」
ぐっ、と妃羽は唇をかんだ。
そして立ち上がり、両腕を脇腹に当ててこぶしを作った(ファイティングポーズ)。
「あっ、あなたがっ、好きだからじゃ、、ないですか!」
優しそうな顔をする威俐を無視して続ける彼女。
とても想いが強いから、裏切られるとか失うのが怖くて、言い掛かりを付けては黒い部分をほじくり
出そうとする。
しかしそれが止められず、どうしていいのか分からない。
・・・そんなことを言った。
彼女は羞恥の気持ちもなく、真剣に悩んでいるようだった。
ふたりでサッサ、とデッキに散らばるもの、テーブルの上の雑品を片付け出す。
波の音を聞きながら、妃羽がまぶたをこする。
そして言った。
「ちゃんとお話したいので寝たいです。仮眠・・・
1時間くらい」
ここ数日、疲れが溜まっているようだった。
リンリン......
鈴の音を聞きながらテクテクと屋内に歩いていく妃羽。
威俐が苦しそうな顔をした。
「あー私も何か具合が悪くなってきた。
ちょっと休もうか。ふう」
心地良い風が吹く。
ふと、猫だったはずの木彫りの小物が、虎だったことを知る妃羽。
(結構驚く)


