小さな世界 > 第6章「休息」
やっと
仮眠から起き、ベッドから降りて冷蔵庫に向かう妃羽。
トポトポ、と炭酸水をグラスに注ぎ、ぼーっとする妃羽を
後ろから呼ぶ威俐。
「良く眠れた?」
Tシャツに薄い青の部屋着。
落ち着いた足取りで妃羽の元にやって来る。
氷を冷凍庫から取り出し、ふたつのグラスに入れる彼。
そっと妃羽の両肩を抱き、「まったくねぇ・・・」
と遠い目をする威俐。
ざざーん、とした心地良いさざ波が聞こえる。
赤くなりながら、妃羽は頭を下に向ける。
数日前 ―
『あ、あなたなんて、いや、あなたを好きになってなんていなかったと思います。
友映と礼法の方が・・・
あなたと私じゃ世界が違い過ぎる
あ、これは変。
仕組まれたもの』
大丈夫だよ、とそっと声を掛けて余裕で見守る威俐をさえぎり、
・・・
さえぎり。
現在 ―
目をつぶる面倒臭い妃羽。
「(これは全部仕組まれたことで、
好き同士になんてなっていなかった。
私の自惚れだった)」
とか・・・
「(あなたは私を好きじゃなくて、「ならされてるだけ」)」
とか・・・
両腕でぎゅっと体を抱き、ぶるぶる震えながら
とんでもないことを言ってしまったと、数日前のことを思い出して恥ずかしくなる妃羽。
そして今回の、「お金云々」の話。である。
ぐっ、とこぶしを軽く作って前かがみになる彼女・・・
威俐はカランッと氷を鳴らして「?」とした顔をして
彼女を見ていた。
ゴシ・・・
右手で額を何気なくこすり、彼女は思う。
全部っ、私が威俐様と離れたいと思って、無理矢理作った理由だ。
傷付きたくないから、守ろうとしてる。
無いところから無理矢理「悪い」ところを探して
傷付かないように、必死にあの人から離れようとしている。
カチンカチンッ
いつの間にか威俐が少し遠くに行って、小さな机の上のミニ・パソコンのようなものを動かしている。
「威俐様?」
その少々だらしない後ろ姿を見ても愛しさが止まらず、顔に暗い影を落とす妃羽。
妃羽は威俐から渡された、林医師の診断書を見た。
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心療内科医:林 穏里
・魏 威俐
自分はずっと冷静沈着で機械的に物事を進める人間だと思っていたが、
妃羽さんという、感情が揺さぶられる人間と出会い、いっそ囲えば
安心すると思っている。
・魏 妃羽
自分は魏家に不釣合いな人間だと思っていて、
何かしら威俐と離れる材料を無意識のうちに探している。
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妃羽は思った。
「(・・・『独立』してからこんな風に動くようになったのかも。
元々こんな風に思っていた部分もあったけど)」
ざざーん.....
人形として、『力』に翻弄されている時も
『力』から開放された今も・・・
同じ動きを、してるのね
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仲良く乾杯する、威俐と妃羽。
ほのぼのとした雰囲気。
<今までのあらすじ>
◇お互いの気持ちが分からずに傷つけ合い、
◇ 『力』ゆえの翻弄に遭って自分自身が分からなくなり、
◇ 『力』から自由になった後もすれ違い・・・
それを林医師に心理を分析してもらうことで
さらに分かり合えた。
面倒臭くて御免なさい、と妃羽が言う。
「うーん、長く続かれると困るなぁ」とコミカルに言う威俐。
ほのぼの。
本当は嫌ってないのに、嫌う材料を見つけていた妃羽。
囲わなくても手に入るのに、分からないから手に入れようとしていた威俐。
ようやく、ふたりは本当に分かり合えたふたり。
また何かがあっても、きっとふたりとも、離れないだろう。
ぎゅっ
・・・その日の夜、
寝室。妃羽はすっかり寝ている(熟睡はしない)威俐に抱き付いた。
だらしない感じで寝ていたが、妃羽はニコニコ顔だった。
「(だらしないのってレア中のレアだ)」
威俐は気付いていたが、寝た振りをしていた。
ガバッ
妃羽が起き上がった。
(幾何学柄パジャマ)
「花宇さんに報せなきゃ」
花宇はその頃、やつれた顔で寝ていた。


