短編集Tanpenshu
悠久を織るWeaving eternity
- 第10話:ドビュッシー
月は思い出す。
永遠に刻んでいる・・・記憶を。
いつでも鮮明に思い出せる
若かりし彼らの美しい時間を。
日本人が好きな歴史上人物?
真っ白な、悠悟宅の二階のベランダ。(広い)
そう。
べランダの手すりに体を前のめりにしながら答える彩織。
困惑する悠悟。
「・・・」
彩織「1位と2位がたいてい『織田信長』と『坂本龍馬』なんだって」
パッと手すりから離れ、くるっと体を回して今度は背中側を手すりに預ける彩織。
ふわ~ん
いい香りのする風が吹く。
・・・
悠悟は聡明な男である。
すぐに分かった。
彩織の『言いたいこと』が。
悠悟?
どうしたの?
・・・「ちょっと、怒んないでよ。褒めてんでしょ!」
少し切なそうな顔になる悠悟。
??
訳が分からなくなる彩織。
「そのふたりはね、悠悟に似てるのよ。
古きを廃して、新しきをドーンッ!て築き上げて来た人たちなの」
悠悟「(ドーン?)」そっと心の中でツッコむ悠悟。
悠悟?
「悠悟ったら。聞いてるの?
・・・?」
少し、沈黙が流れる。
ランキング1位だの2位だの。
「・・・・・・・・・・・・」
彩織「いい加減にしなさいよ!」
パッチーンッ!
ぶわっぶわわわわっ
びっくりするかのように風が舞う。激しく・・・
悠悟「当分特訓だな」
腕を組んでふぅとため息をつく悠悟。
ポロロンッ ポロッ ポロロロロッ
そこまではいい
「次が問題だ」
ビクッとする彩織。
音が凄いことになった。
・・・ピアノのレッスンである。
『悠悟君は何でも出来るから。
うちの彩織をお願いしますっ
あっ、報酬をちゃんと決めないとね』
ニコリ、と美しい笑顔で彩織の母親に頼まれたのだ。
悠悟「(他にもテーブルマナーやら習字やらブリティッシュ・イングリッシュやら・・・)」
ハァッと頭を抱える。
彩織の母親はエステティックサロン経営者である。
優しくて裏表がなく、とても素直で清らかな性格をしている。
『お願いね!』
表向きは本当に美しいのに、すごい・・・威圧感の笑顔。
断わることなんて出来なかった。
ポロ~ンロン♪ ポロロロ~ン♪ ・・・
ドビュッシーの『月の光』
・・・
目をつぶって聞き惚れる悠悟だ。
「彩織はそれが一番上手いな」
フフッ
えへんっ、という感じで腰に両手を当てる彩織。
「まぁねっ」
夜になって、再び広い白いベランダで椅子に座るふたり。
多分、一番居てラクなのはこいつ。
「(だから1位になりたい。
なれたらラクだ)」
ランキング1位になりたかったのは「彩織の」であった。
ねぇ悠悟。
「ん?」
ずぅ~っと一緒にいないと駄目よ。
「色々教えてもらうんだから」
気楽に言う彩織。
「(まぁ大丈夫か)」
ぼんやりと思う悠悟。
しばらく夜空の星々や月を見ていた・・・。が。
パッと起き上がって、
「悠悟。・・・何でもいいわ。弾いてよ」
ピッと後ろを向いてピアノを指さす彩織。
ん・・・
スッと立って室内へとササッと歩いて行く悠悟。
ドビュッシー『水の反映』
彩織「(パチパチパチッ)やっぱり最高ねっ!
悠悟の演奏が世界一よ!」
少しため息をつく悠悟。
ドビュッシーの曲をお揃いで弾いた、ことに気付いていない彩織。
「(合わないのも一興だな)」
冷静な悠悟である。
月「あのふたりが何故か忘れられません」
ポロ~ンロン♪ ポロロロ~ン♪
『彩織はそれが一番上手いな』
『まぁねっ』
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