名前は「シャオ」といった。
昔は貧しかったが、代わりに職などが今とは比べ物にならないくらい神聖で強かった。
・・・強くならざるを得なかったと言うべきか。
ウィリアムはイラついていた。
愛娘はどこの馬の骨とも分からない男とモスコビア(美しい礼拝堂と皇宮で彩られる街)に行ってしまうし、
妻のエリザ(元妻)は別の男に取られるし、、で
本気で疫病神でも憑いてるのではないかと疑いはじめてきた。
ウィリアム「(厄払いでもしてくるかな・・・)」
霊感のあるウィザード系(魔法使い職)やプリースト系(聖職者職)は
視る条件が整った場合にのみ、物事を「視る」という能力が備わる。
そしてウィザード系は、更に、「祓う」という能力も備わる。
しかしそのウィザード系の最上位職である、「ウォーロック」は
祓う力があまりに強すぎ、良い気や運気、オーラ全てを取ってしまうことがある。
これらの能力は、一般的に女性の方が強く、たいていは女性が請け負う。
なので、、一番良いのはハイウィザード(ウォーロックの一歩下)の女性なのだが、
結構これが見つかりずらい。
ウィリアム「(しかもこれでオーラだったら最強なんだけど、、無理か)」
オーラというのは最高レベルに達した証として足元から出る光のことで、
最高レベルになった者そのものを「オーラ」とも呼ぶ。
最上位職でもない限り、オーラになればサッサと次のステージに行くのが一般的なため、
オーラハイウィザードになれば、すぐにウォーロックへと転職してしまう者がほとんどである。
ウィリアム「(オーラハイウィザードで、女性・・・)」
プロンテラ(ルーンミッドガッツ王国の首都)をうろうろしながら、ウィリアムは諦めかけていた。
何故だか、色んな国籍・人種?が行き交うアルベルタならいるかもしれない、と根拠のない目星を付け、アルベルタ(港の都市)に向かった。
ウィリアム「やはり無理かー」
思わずつぶやく。
かれこれ30分は探している。
それらしき人物は一向に見つからない。
普通だったら1時間は探すのだろうが、彼は飽きっぽい。
やめよやめよ、プロンテラの図書館のPCS(パーソナル・コンピューター・サービス)にでも行って調べるのが早い、、そう思っていた時。
「あはははは、ちょっとやめてよー!」
ひとりのハイウィザードの女性が茶色い犬と戯れていた。
ハイウィザードの女性はふわふわした服装をしているので、涼しい格好が当たり前のアルベルタでは良く目立つ。
つ・・・
ウィリアムは少し体をそちらに向けてみた。
目を凝らしてみる。
足元、、、どうだろ?
オーラは普通、相当な自己顕示欲の強い人間か、オーラになりたての嬉しいさかりの子供でもない限り出さない。
これじゃあ分からないな・・・
ウィリアムはそう思い、
良く考えた後、思い切って彼女の方に向かってみた。
他にハイウィザードの女の人がいないからな・・・
そう思って勇気を出して尋ねてみる。
厄が憑いてるようなので祓って欲しい、
どうやらハイウィザードの女性はあなたしか見つからない、是非お願いしたい、と。
丁寧に頼んでみた。
「いいですよー!」
一応上位職なのに、子供のように彼女は答えた。
そして立ち上がって、
ふわっ
ウィリアム「あ」
「ふふふ、丁度いいですよね?」
オーラを出した。
私の名前は「メイチー」どうぞ宜しく!
初対面なのに満面の笑みで彼女は言った。
ウィリアム「メイチー(美織)?東洋系か。効果ありそうだな(根拠ない)」
メイチー「シャオイー君、ちょっと待っててね」
茶色い犬をなでる。
何故だかぎょっとするウィリアム。
その反応にきょとんとするメイチー。
そしてハッとしたような顔をして、
突然聞くメイチー。
「あのっ、もしかして、「シャオイー(喬一)」っていう近縁者の方、いますか?」
ウィリアム「いえ」
残念な顔をした後、まぁそうだよね、、という諦めのような笑みを浮かべて下を向くメイチー。
ウィリアム「お知り合いの方ですか」
メイチー「幼馴染なんです。ずっと行方不明で」
ウィリアム「行方不明・・・」
突然ヘヴィな単語が出たなと驚くウィリアム。
そして、再度また驚いたように目を見開いて、パッとウィリアムを見るメイチー。
メイチー「あなた、、前世でフェンリルナイトだったんですね。・・・多分」
ウィリアム「(前世・・・)」
さっき『シャオイー』という名に思わずぎょっとしたのはその時の何かなのかな、と思った。
「(前世の名前に近いとか ←その通り)」
ウィリアムは前世など信じない人間である。
「前世より今だろ!」派の人間である。
なので少々顔をしかめてしまった。
その顔を見てあっと思ったのか、メイチーが言った。
「御免なさい。知り合い、、さっきの、、に関係あると思ってべらべらしゃべっちゃって」
ウィリアム「いえ」
メイチー「えっと、祓うんですよねっ」
一生懸命になっているメイチーを見てウィリアムは彼なりの助け舟を出してみた。
ウィリアム「シャオイー(喬一)、って変わった名前ですね」
え? メイチーは驚いてウィリアムを見た。
すぐに話したくてたまらない、という子供みたいな顔を、、ウィリアムは見逃さなかった。
この人はエリザに少し似てるかもしれない。
メイチー「ええ・・・、数年前にここから船で出たのはハッキリしているのですが・・・」
ウィリアム「それで行方不明?」
メイチー「はい、、随分探したのですが、、どこの街にも、、ダンジョンにも、、」
湿っぽい空気が漂う。
やっべーなー、とウィリアムは思った。
メイチーは茶色い犬をなでた。
「でも、、いいんです。いつかきっと会える、、そう信じています」
彼女の顔の、悟ったような、諦めたような・・・哀愁漂う雰囲気を感じて・・・
ウィリアムは気付いた。
ウィリアム「(そうか。おそらく、、彼はもう・・・)」
メイチーは何故、戻ってもこない故人を待ち続けているのか。
幼馴染ってそんなにいいものか?
ウィリアムは首を捻った。
ウィリアムとエリザも幼馴染だったが・・・
いつも一緒にいて、、結婚して、、
俺を好きな理由を「人畜無害だから」とか言いやがってッ!あの女!
思い返すと微妙な想い出ばかりである。
メイチーたちは違うのだろうか。
夫婦かどうか分からないけど、、
もし夫なら、妻を置いて奥地になど行かないだろう。
ウィリアムはその回転の早い頭でぐるぐる考えてみたが、
すぐに考えるのに飽きた。
メイチーはハッとした顔をして言った。
「じゃ、祓いますね」
ウィリアム「お願いします」
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