神武天皇が連れていかれた草原は、
高佐士野(タカサジノ)という所でした。
そこには7人の乙女たちが遊んでおり、
家来の大久米命(オオクメノ)は神武天皇に問い掛けます。
「どの乙女がお好みですか?」
神武天皇は
「あの一番先頭にいる、一番年上の乙女だね」と
答えました。
わざわざイスケヨリヒメ本人を誰だと知らせずに、
「どの乙女が良いですか?」と聞くというのも
少し、試しているような感じがするのですが、
まさにイスケヨリヒメ本人を選んだのでした。
これは、
「血筋が相応しいから婚姻する、のではなく
普通に見て、そして他の人と比べて『この人』と選ぶくらい
普通に好みだった」
という要素を出すことで、
天皇は、配偶者は血筋のみで選ぶのではなく
たまたま選ばれた相応しい血筋のお妃でも
運命的の場合もあれど、普通に「好きだから結婚した」という描写をすることで
天皇の、配偶者に対する思いが物質的なものではない、と
いう表現をしているのかもしれません。
オオクメノはイスケヨリヒメに
「私の主人が、貴女を気に入った、と言っています」
と伝えました。
オオクメノは目の下に入れ墨をしていてパッと見怖い顔に見えるのですが、
イスケヨリヒメは「怖い」などを言わずに
「何故あなたは鋭い目をしていらっしゃるの?」と聞きました。
そのまま思った通りに
「怖い顔」「恐ろしい入れ墨」などと言わずに
言葉を選んで話す描写が出ているので、
イスケヨリヒメのお育ちの良さを表現しているように思います。
オオクメノは
「貴女のような(我が君に相応しい)素敵な乙女を探すために
こんな鋭い目をしているのです」と
答えました。
こうして、神武天皇とイスケヨリヒメは結ばれ、
イスケヨリヒメは初代皇后になりました。
さて、
このイスケヨリヒメの父......
つまり少し前に出て来た「オオモノヌシ」の話になりますが。
この神武天皇の妻問い(結婚する女性を探すこと)に少し例が似ています。
前ページに
「オオモノヌシと絶世の美女との間に生まれたのが、イスケヨリヒメ」という内容を書いたのですが、
男性のシャイさ、奥ゆかしさを表しているような話が出てきます。
オオモノヌシは「大物主」と書きますし、
オオクニヌシが祀ったことで、葦原中国が豊かになっていった原因のひとつになったので、
物質の神なのです。
なので容姿の美しい神ですし、
物質の神なので、選んだ女性は絶世の美女、ということになる訳です。
オオモノヌシは、三輪山の蛇の姿をした神様なので、
蛇の神様が美しい乙女を見初め、勝手に逢って子供が出来てしまって...などと言う
日本昔話は多いのですが、
これがひな形なのかもしれません。
イスケヨリヒメの両親...
オオモノヌシと
勢夜陀多良比売(セヤダタラヒメ)の
馴れ初めの話です。
何だかある意味、
日本の男性の本質を表しているような話なのですが...
オオモノヌシはセヤダタラヒメを見初めました。
ある時セヤダタラヒメが用を足している時―...
オオモノヌシは 矢 に姿を変えて
外から部屋(トイレ)の中に侵入、
セヤダタラヒメのセヤダタラヒメを突きました。
そんな部分に矢が刺さって、
死んでしまうのではないか?と思ってしまいそうですが、
セヤダタラヒメは何とか自分の大事な部分から矢を抜きました。
特に怪我をしたという描写は出てきません。
その矢はあまりにも美しい矢で、
その美しさに見とれてしまったセヤダタラヒメは
その矢を自分の部屋に飾りました。
これはつまり、
オオモノヌシは大変美しい神様なので、
矢に変身しても、どういう姿であっても、
部屋に飾るなんて、そんな有り得ない...という展開になるほど
美しいのだという表現を表しているのだと思われます。
セヤダタラヒメが夜、寝ていると
部屋に飾ってある矢が、オオモノヌシの姿に変わり、
そして2人は結ばれました。
恐らくトイレでの最初の描写は、
そういう行為をそれとなく表現しているものだと思われますが、
そういう度胸がないから、
用を足している時なら服もその部分もめくれるし、
矢なら容易に刺さることが出来るので、
そういうことをした...という
オオモノヌシのシャイな部分、強く出られない部分を表している
興味深い描写だと思います。
即座に女性を惚れさせる魅力があるのだから
堂々と正面から行けばいいのに、
強く出られないにも程があるようなシャイな行動が、
何となく日本男性の奥ゆかしさを物語っているように思われます。
女性が自分(どんな姿であれ)を気に入ってくれて、
部屋の中に入れてくれるのを確認した上で近づいている訳ですから...
そして生まれたのがイスケヨリヒメです。
初めはホトタタライスケヨリヒメという名前だったのですが、
ホト(女陰)という名前を厭い、
ヒメタタライスケヨリヒメ、という名前に変えました。
イスケヨリヒメはイワレビコ(神武天皇)とセットで覚えると
不思議と覚えやすいので
是非覚えてみて下さい。
神武天皇とイスケヨリヒメとの間には
日子八井命(ヒコヤイ)、
神八井耳命(カムヤイミミ)、
神沼河耳命(カムヌナカワミミ)
という3柱の御子が生まれました。
...やはりここでも、
末っ子が活躍し、末っ子が跡を継ぐことになります。