その後も進んでいくイワレビコ一行。
やはり天の神の子孫ということで、
各地にいる国津神たちは次々と、イワレビコに従っていきました。
ところで、日本国民のことを、
二次大戦時に「神の子」などと呼んだりしていましたが、
これは、今現在の日本人が
国津神と人間のハーフだから...
つまり元々いた国津神の子孫だから...と
いうことになります。
と言っても、「神の子」という響きだと、
いかにも「全知全能で、完璧な人格を持った人型の存在」、のような
『神』という響きからくる大層な存在のように思えますが、
国津神の子孫、つまり、ニュアンス的には
『先住民族の子孫』のようなもの意味なのだと思います。
...後世の人間たちは(特に明治~昭和初期の日本人たちは)
この「神の子思想」を少し間違って解釈しているように思われます。
国津神、の子孫ではあるけど、
「神」という絶対者のような「神」と名の付く完璧な存在、と
いう少し大袈裟な意味に捉えてしまったのかもしれません。
よく古事記のことを
「神様たちは神様らしくなく、人間くさい」と表現されますが
神、と言っても元々「神」という単語の意味である
『全知全能の......』というような意味での「神」ではないので
そりゃ人間くさいのでは、という話です。
「神」が付くから特別な存在だと思ってしまった...という可能性があります。
私たちのDNAを辿れば、そこには国津神のDNAがあるというだけの話です。
先程の話に戻りますが、
イワレビコは、熊の件の後に順調に次々と国津神たちを従えていきました。
しかし
宇陀(うだ)と言う場所で
「天の御子なんて認めない!」という豪族がおり、
表向きは丁重におもてなしをする振りをして、
裏をかいて倒してしまおう、という計画を立てました。
その計画は、その国の代表者である兄弟の、
兄、
兄宇迦斯(エウカシ)が立てたもので、
弟の
弟宇迦斯(オトウカシ)はこれを恐れ、
兄の恐ろしい計画を、イワレビコにその計画を事前に報せました。
ここでも、悪としての兄と、
善としての弟の対比描写があります...
イウカシは罠が仕掛けてある部屋にイワレビコを案内し、
― そこを踏み抜くと落下して命を落とす、という仕掛けがしていあるのですが ―
「どうぞどうぞ」と部屋の中に入れようとするのですが、
事前に弟から、この兄の企みを知らされているイワレビコは
部屋に入る前に
「まずあなたが先に入れ」と言います。
そのまま、無理矢理兄を(エウカシを)仕掛けの中に落とします。
…
罠に引っかかって命を落とすことになりました。
天の御子に対し、引っかかったら命を落とすような仕掛けを作ったということで、
エウカシの体はバラバラにされました。
突然の極端な表現ですが、
天皇を殺そうとするのは本当にいけないことなのですよ、という
強い警告としての解釈も出来るかもしれません。
次の忍坂(おさか)という土地では、
その土地の者達にたくさんの御馳走を振る舞い、油断しているうちに
襲いました。
今まで普通に次々と国津神を従わさせて来たのに、
反乱をされたり企てられたりした訳でもないのに襲撃しているのは何故なのでしょうね...
この時に
「屈強な男たちを久米の子たちが倒す」
というような意味の歌が詠まれています。
久米(くめ)というのは古代の軍事氏族のことです。
この歌は今現在でも歌われ、
平安装束にて、公式行事で舞が舞われています。
そしてついに...
兄の仇であるナガスネヒコの所に行く時がやってきました。
すると
邇芸速日命(ニギハヤヒ)という天津神が現れました。
「私はニギハヤヒという天津神です。
(天津神、ということはイワレビコと同じです。
天上の神を天津神、
地上の神を国津神、と言います)
あなたの探しているナガスネヒコは私の家来です。
主人である私から、貴方に仕えるよう、命令しておきました」
と言いました。
そして自分が天津神である証拠の品をイワレビコに渡し、
そのままニギハヤヒは、イワレビコに仕えることになりました。
ここでナガスネヒコとニギハヤヒの対比が出るのですが、
イワレビコの兄であるイツセが、
ナガスネヒコに命を奪われる時に、
「卑しい者に傷を負わされ、私は死ぬのか!」と
叫ぶという一幕があります。
ひどい...と言いたいところですが、
ナガスネヒコはすでに、天津神であるニギハヤヒに仕えていたから、
同じく「天の御子」と言ってやって来た イワレビコに反感を覚えたからであり、
そのニギハヤヒは「家来が無礼を働いて申し訳ありません」と
いう趣旨と、
「ナガスネヒコには私の方からきちんと伝えておきました」と
報告をした上で
自分の天津神としての証明である品を渡した上で
「お仕え申します」と言っているのですから、
言葉は悪いですが、
弱い者ほど、判断が鈍く、表現的には『卑しい者』と言われ、
力のある者ほど、見る目があって、本当に尊い存在を認識出来る...
ということを表していると思います。
ナガスネヒコとの対比があることで、
ニギハヤヒの天津神としての力の強さを認識出来ます。
ちなみにナガスネヒコは最後までイワレビコの尊さが分からず、
諦めたニギハヤヒに命を奪われます。
卑しい者は天皇の良さを認識出来ないし、
命を奪われる...
そういう運命を表しているように思います。
こうして、大和を平定したイワレビコは、
畝火の白檮原宮(うねびのかしはらのみや)...
つまり畝火という場所に白檮原宮という宮殿を建てました。
そこで天皇として即位しました。
豊かな葦原中国を見て、
「この国を治めたい...というか元々葦原中国も私のものではないのか?」と
アマテラスが思い、
葦原中国の代表者である、オオクニヌシに国を譲ってもらい、
そしてアマテラスの名代を地上に降ろし...
名代の子孫が
「この国は天上のものである。
そのため、天上の神の象徴であるアマテラスの血をひく天津神である私が、
国の代表者という宣言をします」
と国に広く伝えた...
天皇の即位というのは、こういうことを表しているのです。
即位後、
天皇という立場になったからには、
その立場に相応しいお妃を迎えなければ、ということになりました。
そうして、相応しい女性が見つかりました。
神武天皇の家来たちが見つけた女性なのですが、
その女性は オオモノヌシ と 絶世の美女との間に生まれた女性、とのことでした。
オオモノヌシとは、
オオクニヌシが、国造りをしている時に、海の向こうから
「貴方の幸魂奇魂(分身)です」と現れた、
上巻に出て来た神様です。
オオモノヌシは
オオクニヌシの分身(名前が似ているので紛らわしいですが)であり、
アマテラス系である神武天皇からすると、
「国を譲ってもらった、いわば恩のある存在」という訳です。
その、オオクニヌシと関係がある乙女ならば、
これ以上ない相手...と言えます。