民家のかまどから煙が立っていないことに気付き、とても驚きました。
それほどに民が貧しい生活をしているのかと悲しみ、
3年間の納税、労役の免除を言い渡しました。
工事のための労役がないため、宮殿の屋根の
葺く材料にも事欠き、
雨漏りがするようになってしまいましたが、
仁徳天皇は気にせずに過ごしました。
更に食事も質素に、着る服も粗末なものを着ることになりましたが、
民が豊かでないのは、自分自身が豊かでないのと同じことだと言い、天皇はその生活を続けました。
そうして3年が経ち、民家からかまどの煙が立ち上るようになり、
安心した仁徳天皇は、元通り 徴税と労役を課しました。
すると感謝した人民が颯爽と宮殿を急いで直した...ということです。
このような、国民を思いやる
御世を称え、
人々は仁徳天皇の御世を
聖帝(ひじりのみかど)の御世と呼ぶようになりました。
仁徳天皇は聖帝と呼ばれる傍ら、大変な女好きで、
いつも皇后はそのことに悩まされていました。
ちなみに、少し前にカミナガヒメという女性を父から譲り受けていましたが、
皇后になったのは別の女性です。
何度か出て来た、
建内宿禰の孫で、
位的に高いために皇后になったと思われます。
名前は
石之日売(イワノヒメ)と言います。
恐らく仁徳天皇が原因だと思われますが、
大変な焼きもち妬きで、仁徳天皇が心を寄せる女性たちに意地悪をしていました。
嫌がらせを受けた女性たちは天皇から遠ざかり、
それでも天皇は懲りずに女性を娶る...その繰り返しでした。
怒った皇后は家出をしたりしたのですが、
ふたりは割りとあっさり仲直りしました。
焼きもちを妬く一方で、イワノヒメは天皇を愛する情熱的な和歌を多く詠んでいます。
・男側が女好き、多くの女性と結婚して繋がりを持とうとする
・正妻側が焼きもち妬き
・お妾さんに意地悪をする
・夫婦は何だかんだですぐに仲直り
・妻は夫を想う和歌を詠む
このやり取りが
オオクニヌシとスセリヒメと重なっています。
天孫降臨にて、天皇の祖先が日本に降り立つ以前の、
大昔のいわば「日本の主」とその妻のやり取りに重ねることで
仁徳天皇を、第二のオオクニヌシとして印象付けさせている可能性もあるのかもしれません。
多くの女性と関わりを持ち、多くの豪族と繋がりを持つことで仁徳天皇の血が広く渡って行った...ということなのでしょう。
聖帝と呼ばれた仁徳天皇ですが、
3年の免税の他に、農地開拓や治水工事、百済に遣いを送って地方行政を定めるなど様々な功績があります。
優秀な遺伝子が広がって行った...ということなのでしょう。
男性の方から行かずとも、
女性の方から寄って行った、となると
...一番最初の、イザナミがイザナギに先に声を掛けて結婚して、
体の弱い子供が生まれる、という不吉なことが起こるので...
どうしても、男性の方から向かう、という形でないと駄目ということなのでしょう。
女好き、というレッテル無くして、
能力のある男性の遺伝子がたくさん広まる、というのは難しいのかもしれません。
この、能力がある男性=好色 にせざるを得ない背景は非常に興味深いものがあります。
古事記に限らず、ギリシャ神話でも、大神ゼウスはどうしようもない女好きとして描かれていますが、
全てを統べる神であり、
ゼウスの血を引く子供たちは例外なく大物になっています。
この方の血はあまたに広く受け継がれているのですよ、という表現をしたい場合は
その男性が自動的に好色設定になってしまうのだと仮定すると、
オオクニヌシや仁徳天皇が優秀だということを伝えたい昔の人々の意思があるのかもしれません。
オオクニヌシ=天皇の血筋が降りる前の、日本の主
仁徳天皇=古代天皇の中の、優秀な天皇
…さて。
それでもまた懲りずに仁徳天皇は、勢力固めをするためか、
異母妹の
女鳥王 を迎えよう、ということになります。
しかし、やはり同じ異母弟の
速総別王 が
女鳥と相思相愛で、
こっそり隠れて結婚します。
仁徳天皇は諦めて身を引きますが、
何とふたりは結託して、仁徳天皇に反乱を起こします。
雀(仁徳天皇)よりも
隼(速総別)の方が強い。
雀を弑してしまいなさい
そう
女鳥は言うのです。
女鳥、とか雀とか、隼とか。
鳥がたくさん出て来るのは何か意味があるのでしょうか...
この『鳥』繋がりが何か印象的です。
結局、ふたりは天皇軍に攻め滅ぼされてしまいます。
この時、ふたりを討ったのは
大楯連という将軍だったのですが、
元は女鳥の家来でした。
天皇に逆らう謀反人、ということで主人である女鳥を弑した訳ですが...
後日、その大楯連の妻の手に、
女鳥の腕輪が巻かれているのをイワノヒメ(皇后)が発見します。
女鳥を弑した後、女鳥の腕に巻かれている腕輪があまりに美しかったので、
それを抜き取り、
ちゃっかり妻に与えていた...ということが分かります。
イワノヒメは大変怒ります。
「確かに女鳥は、天皇に謀反を起こした反逆者ではある。
けれど、仮にも一応主人であった人間の大切な物を抜き取り、
自分の物にするなど!何て卑しいのか」
そしてイワノヒメは大楯連を処刑してしまいます。
謀反を起こした人間は許し難いけれど、
主人をまるで穢すような家臣の行為は見過ごせない、ということです。
普段は感情的で恐い存在ではあるけれど、
悪いことは悪い、ときっちり筋を通すイワノヒメを見て、
惚れ直す仁徳天皇でした。
...
仁徳天皇とイワノヒメとの間には4柱の皇子がいます。
仁徳天皇の崩御後、
そのうちの3柱の皇子が、歳の順に皇位に就いて行きました。
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仁徳天皇崩御
↓
長男が17代天皇
履中天皇(りちゅうてんのう)に
↓
次男が兄に反乱を起こす
↓
三男が次男を討ち、18代天皇
反正天皇(はんぜいてんのう)に
↓
四男が19代天皇
允恭天皇(いんぎょうてんのう)に。
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...今まで「父から子」が基本とされていた皇位継承でしたが、
仁徳天皇の息子たちの代において、
新たに「兄から弟」という皇位継承が前例として定着します。