黄泉の国の扉を通ったことで、
なつさんの精神:肉体配分は、測定不能、から「7:3」になってしまった。
最小限の数値になってしまうのである。
「(彼女に触れたい。もう触れられない)」
ぼーっと、彷徨うような感じで歩くなつさん。
しばらく、ずっと静止していたが、ずっと泣いていたことが分かった。
もう会えないのかな。
いや、会えるよね。
ここ寿命というのがあるから。
いつか死んだら、また会える。
・・・
・・・
会いたいなぁ。
彼は河の近くの小石が敷き詰めてあるところに寝転がった。
ふと、カグツチを思い出すなつさん。
「(悪くないのは分かってるよ。
でも、今だけ恨ませてくれ。
恨まないとやってけない)」
宮殿の、物たちを配置していた場面、
水蛭子をあやしていたはるさん、
隠れんぼしていて、ずっと隠れっぱなしだったはるさん。
天之御柱(あめのみはしら)で周りっこしていた想い出。
四国が出来た時の喜び。
ずっとこういう時が続くといいね、と縁起でもないことを言っていたはるさん。
雨が来て、雷が来て、
その雷の時に、・・・
そうだ、あの雷の日。
彼女はカグツチを身ごもって。
それさえなければ。
それさえ
黄泉大神になったはるさん。
カグツチを産むきっかけになったのは雷があったからだわ。
彼女は涙を流し、それらが皮肉にも、ぽこぽこと雷の神になっていった。
その涙を、あえて体中にぺたぺた塗り、さらに雷の神を作り出すはるさん。
「(神産みやめようって言って、でも出来た結果がカグツチなのよね)」
『カグツチに言って。
あなたのせいじゃないって』
「(カグツチ、御免なさい。本当にあなたのせいじゃないの。
私は神避りしてもしょうがないわ。
運命だったのね。
なつさんはアレだからどうしようもないけど、、逞しく、優しく生きていってね。
運も母はあげますよ)」
強い愛の証であるカグツチ。
しんみりしながら彼を思うはるさん。
雷神たちはとても強い顔・・・として怖い顔をしていたのだが、
ひとりだけ、色白で端麗な男神が混ざっていた。
他の雷神たちはその神を一向に気にせず、はるさんを主人としてひたすら四方八方を見渡しながら荒い息を
吐いていた。
そんな時、後ろからタカミムスビが声を掛けてきたのである。
振り返って、はるさんはとても驚いた。
「(何故黄泉の国に?)」
静止するはるさん。
タカミムスビによると、はるさんの作り出した雷神はとても素晴らしい。
是非譲ってくれないか。
とのことだった。
彼は言葉を続ける。
「私は、私を倒してくれるような、・・・刺激を与えてくれる神が欲しかった。
彼らにそれが見える」
と。
タカミムスビは大樹である。
「(雷と、樹?)」
しばらくの話し合いの結果、雷神たちをタカミムスビに譲ることになった。
雷神たちも素直に付いて行った。
端麗な雷神は、何かを含んだような顔で、冷笑?を浮かべ、母から去って行った。