数日後―・・・
海の近くに小屋を建て、
そこで完全にカタカタが回復するまで、
コトシロとヅチヅチは看病した。
カタカタは、被害者のはずなのに
ハラハラしながらいつもヅチヅチを見守っていた。
看病中、ヅチヅチはずっと青い顔をしたまま、
御免ね、御免ね、
と謝っていた。
下を向きながら。
神という種だからか、傷の治りは人間と違ってとても早く、
カタカタは一か月もするとほぼ完治し、腕の付け根をぐるぐる回して
柔軟体操をした。
小屋は、青くなりながらも海の近くの林の木々をササッと切り、
手際良くヅチヅチが作ったのである。
後付けで寝台やら箪笥もどきやら、・・・色々。
食べ物や衣類などもたくさん持って来た。
人間の長の所に行き、やっかいな荒ぶる神をやつける代わりに
たくさんブツを仕入れ、、という訳だ。
ヅチヅチの罪悪感による青い顔を見るたびに、
コトシロとカタカタは本当に心配した。
スサノオは配分が9:8だから仕方がないが
スサノオがいなければ、ヅチヅチは高天原、葦原中国含めて
最強の存在なのである。
そもそも造化三神の中の大樹の神、高御産巣日神(愛称:おむすびさん)を
弑するために創られた神なのである。
組み合うどころか、少し体が当たって少し触れただけでカタカタが宙に舞い
グルグルッと空中で回り、複雑骨折させてしまう・・・
そんな力を持った自分を思い、ヅチヅチは何度もじわっと涙を浮かべた。
一歩間違えれば人や神を殺してしまうし、それどころか相撲ひとつ出来ない。
スサノオをとっつかまえればいい話だが、
変な話、スサノオとしかやりあえない。
カタカタは涙するヅチヅチを見て思う。
「(君は、優しすぎるんだ。強い存在は優しいからな―・・・
相撲のひとつもさせてあげたいが・・・どうしたら・・・)」
ヅチヅチは魂を分割させ、人間に生まれ変わると宣言した。
カタカタは「(それはいい!)」と顔を明るくした。
そしてヅチヅチのために、・・・人間に生まれ変わった時のために
相撲の様々なルールやら階級やら決まりなどを作って
晴れ舞台を作ってあげたいな・・・と思った。
・・・
谷風。
江戸時代の力士である。
初代と二代目がいる。
風神、カタカタの魂分割での生まれ変わりであり、
カタカタの記憶をうっすら残した大横綱だ。
一方―・・・
子供に恵まれず、道端のお地蔵様に
「逞しい男の子をお授け下さい」と拝む女性に
優柔不断にずっと人間に生まれ変わらずにフラフラしているヅチヅチが
力を与え、
鬼のように強い子が生まれた。
これが雷電(らいでん)である。
雷神、ヅチヅチが力を与えた子であり、
歴史上最強の力士であるにも関わらず、横綱になれなかったという人物だ。
谷風(カタカタ)は、記憶保持が二割切るくらいではあったものの、
追い立てられるように、無意識で力士になって相撲のルールや決まり、様々なものを作った。
夕闇と夜の間くらいに、藤棚のような場所(藤が掛かっていない藤棚)を歩きながら
前に見える篝火(かがりび)を目指し、・・・
そんな生き方をしていた。
・・・しかし、ヅチヅチは生まれ変わらなかった。
生まれ変わっても、カタカタを殺してしまいそうになったように、
また殺してしまうかもしれない、という大きなトラウマが、
彼を中有(ちゅうう。人が死んでから、次の生を受けるまでの世界。空間)に
漂わせていた。