第8話:均衡
カグツチが帰った後、アカナゴマは温かいお茶を飲んだ。
『特別、ねぇ』
小さい声で言って、少しだけ緊張が取れた顔をしていたカグツチ。
「それじゃあ、・・・来ないとは思うけど、
天上の火の女神様(めのかみさま)が来たら宜しくって。
じゃあな」
さっと後ろを向いて行ってしまった彼。
そもそも、アカナゴマという存在を知っているのはカグツチのみなので
何を考えているのだろう、とアカナゴマは思った。
―昔・・・
母親『私っ、あの子を置き去りにしちゃったの。うっ、・・・はぁ』
私、あの子に何か言わなきゃ。
有難うとか
・・・御免とか
でも・・・約束破っちゃった
それが、嬉しいって。
情けないな・・・
テクテク、アカナゴマの社の道を歩きながら
カグツチは思い出していた。
父親には言うなと言われていた、兄の存在。
置き去りにして御免と、代わりに言ってくれ。
今はとてもそちらには行けない、
置き去りにして御免なさい
置き去りにして御免なさい。
それを呪文のように、というか、自分に聞かせる子守唄のように
ずっと言っていた母親。
カグツチは爽やかな風が吹いたと同時に、社の方に振り返った。
何故、自分(カグツチ)を産むなと言った兄が、こんなにも愛しいのだろう―
「(存在を、知っているのは俺ひとり―。
兄貴はお寂しくないのだろうか。
まぁだから俺が来て「やってる」訳だけどな)」
そして
スッと切り替えた。
「(深く愛し合うって何だろう。
禍々しい気が。
本当に太陽の神か?
どす黒いこの感じは・・・
どす黒い太陽の神?)」
癒されるはずのアカナゴマの島内。
訳の分からない、どよーんとなるような空気がカグツチの周りを覆った。
元来、太陽は「男」であり
力の源。自立、自主性。
子供の無邪気さ、子供特有の良さ。
それらを表す。
対し、
月は「女」であり、
癒しの存在。受動型。
大人の知性、大人のような理性。
神聖な、小ぎれいなプライベート・祭祀部屋(にしては少し大きい)で
ウルメは言った。
「・・・今までは、『太陽』が女神であることで、均衡が取れていたのです。
でも、『太陽』の男神が出来ることで、世の均衡が」
うーむ、と考えて、柔らかい素材で出来たキラキラ光るほうきで、部屋内を掃除するウルメ。
ウルメ「さらに言うと、太陽は「正」で、月は「邪」です」
くるり、と後ろの神に振り返り、彼女は堂々と言う。
「月は、誘惑の象徴。
男を堕落させ、駄目にしてしまう。
そういった意味でいうと、月は太陽に負けてないですね。
い、いや月に負ける、、女に負ける男が悪いのですけど」
記憶を失ったこと、
世の均衡が元通りになったことについて、ウルメは考察している。
もしかして、月に何かあったのではないかしら、とツクヨミの方を見るが、何もピンと来なかった。
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