第6節:未恋
第2話:福老
色々と努力はしたのだが、結局オオモノヌシは何も出来なかった。
祭りに乗じてそっと声を掛けようとか
人を介して、とか
しかし結局。
どうせ彼女は言うことを聞いて、結婚しない子供を作らない、を貫くのだから
別にいいや、と諦めた。
タタラヒメがふにふに浮かせていた、謎の空気の揺れは何だったのだろうか。
それは高潔な「魂」が視覚化したもので、
タタラヒメの高位な精神性を表したものだった。
何とも生産性のない話だ。
何も生み出さないどころか、何も始まってない。
見守っていたフクロウは非常に虚しい気持ちになった。
だからこそ、この話を人に話した。
人はオチのないもどかしい話に、何かとオチを付けたがる生き物だ。
人、にこの話を発展させてもらいたかった。
この美しい話は、誰も知らないまま時が過ぎ、
いずれ自分も寿命を迎える。
誰も知らないなんて悲しすぎる。
人は勝手に創作した。
フクロウの思惑通り。
タタラヒメは物質の神が目を付ける程の美女に、
何も発展しないふたりを、どうにか発展させようとしてかゴリ押し展開に、
当然ふたりには子供が出来る、等々・・・
体から精神性があふれる程の高潔な『精神』を持つ娘だったから
『物質』の神であるオオモノヌシが自分にないものを持った存在だから
惹かれた
→美しい娘だったからオオモノヌシが見初めた
何も発展しない。オオモノヌシは想いすら伝えられなかった
→いやいや、ふたりは結ばれるべき
→でも恋愛話は作るのが億劫
→さっさと
→でも強姦はやばい
→その行為を成立させるためには?
→ちょっと、子供も見てるかもしれないのよ!
→タタラヒメが厠で用を足している時に、矢に変身したオオモノヌシが
タタラヒメの下半身を突いた
子供は絶対出来てないといけない
→それがオオキミになった、とかいいかもしれない
→さすがにそれは畏れ多い
→オオキミのお妃は?
フクロウは思った。
(長く生きていた)
「(ちょっと・・・変だけど、ふたりの話が伝わって良かった。
まさか初代オオキミのお妃が、ふたりの子ってのは・・・)」
ロマンチックに改変する人間たちがフクロウは愛しかった。
が、「精神性に優れた女性を、物質の神が見初めた」という事実を
伝えるのが面倒臭いのは分かるが「美しいから見初めた」と改変するところだけは
悲しかった。
やはり「話」で伝えるのは駄目だ。
文章で伝えないと、と思った。
長く生きて、ある夜に空から下を見た時に思った。
なんか、同じ鳥の種族からの共有感覚だけど、
この国は本当に美しい。
こんなに美しいのに、子々孫々は、この国を全然知ろうとしない。
僕は悲しい 悲しい とても・・・
そして、人に色んな伝承話を伝えた。
人は、楽しい話美しい話、興味深い話に改変していく。
フクロウは空を飛びながら思う。
「(この国の人は明るい。きっと素の状態を汚さない状態で、昇華したような話にしてくれる)」
全然違う話になっても、それは運命。
きっと歴史そのものが「生き物」なんだろう―
そう、思った。
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第6節:完
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