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ふることふみ

新解釈の古事記 
TOP章ごとの目次第7章:その他


力士というものはかなり大昔から日本に存在する神聖な存在である。
記録に残っているものを調べて、現在まで調べて最も強い力士を選ぶとするならば、
恐らく「雷電」という力士だろう。

少し前の話で、雷電の話があった。

彼には興味深い過去がある。
今の歳の感覚で言うところの中学二年生辺りに、真面目な人間を絵に描いた男性に告白されたのである。
しかし彼は男性であり、そして何より雷電は彼を全く知らなかった。

雷電は女ではない。
しかしその頃は細い肩、細い体をして色も白く、
その頃なら多少は生えるような髭がなかった。
誰が見ても少女に見える外見をしていたが、彼は全く気にしたことがなかった。
周囲も特に何とも思わなかった。
今ではにわかに信じられないことだが、特殊というか、そういう時代であった。

告白したからといって、だから何なのだろうか。
嗚呼、有難う。それは嬉しいよ、とか
感想を欲しかったのだろうか、それとも親しくなりたかったのだろうか。
単純に聞いて欲しかった、と相手は言い、

その誠実な感じに、好感を持った雷電はじゃあ交際というものをしてもいいよ、と言った。
しかしタイミングというものが分からずふたりはうまくいかなかった。

色々と聞きたいことがある時、楽しくしたい時にどっちかが白けていたり、
特に欲しいとも言っていないのに、それを買って来て贈ったり。
逆にどこどこに行きたいね、というと少し忙しいとかあまり興味がないとか

もう、興味がない頃に行こう、と言ったり。


ふたりが離れた後に雷電が得たものは、
存在というものは、魂がまずあって、肉体がありき、だということだ。

当たり前なのだが、今まで考えたことがなかった。
そんなの当たり前だったから。

そんな考えに至っている時点で、何かあったのだろうか。
無粋にも第三者の目からはそう映るようなことであろうが、それは分からない。
価値観だとかが、現在の世と同じかどうかは不明だからだ。

そう思った時、
生きてるということは、いずれまぁ魂になるの前提で「まず肉体があった状態が続く期間があったこと」であると。

そう思った時彼は、人間というか
周りの人間たちが愛しく感じた。

目に映る全ての人間が。

生きているうちにしか出来ないことは多いだろう。
肉体が消滅した後に「もっと生きていたかった」と思うことは多いだろう。
過ぎてしまったらもう遅い。

いずれ死ぬだろう、ではなくて
今のうちにたくさんやっておこう、たくさんやることをやっておこう、
と思った。
強く。


だから死んだ後にあまり良くない世界に行く時には
精一杯生きたからいい、と思った。

彼ほど、生や力に固執した人間はいなかった。

きっかけはともかくとして、生を全うするにあたり全力で生きたからこそ
その戦歴は、その記憶は残るのである。
他の人間たちの記憶の中に。

彼そのものは何も為さないし最後には消える。
完全に。

害そのものはそれこそ「均衡」の力でいつか消える。

そして気が抜けるほど新しい害は普通にぽこぽこ生まれ、
そしてまた消えていく。

ただ、本当の「力」を持つ者は他者の「記憶領域」を隔てて
永遠に残るのである。

彼はその対象かはどうかは不明だが、
ひとつだけ彼が教えてくれたものがある。

生への執着こそが、「力」の全て。
存在することの意味だと。

全てだと。


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