小さな世界 > 第1章「妃羽」
孔雀以上の
暘谷。
白 暘谷(ばい やんぐー)。
威俐の有力な秘書である。
その日、暘谷は強い口調で威俐に言った。
煌びやかな赤と金の部屋。
それとは対照的に堅い黒いスーツに身を包んだ暘谷が威俐に苦言を呈した。
「威俐様。あの、、その。
妃羽さんは何処かの権力のある家柄の女性ではありませんし、
我が組織には何のメリットもありません」
暘谷「あなた様が何を考えているか、私にはさっぱり分かりません。
お好きになったのなら、お妾?という手も
(側室?何て言えばいいんだろう)」
後ろを向いて座っている威俐。
沈黙を貫いている。
部屋の香の薫りが桜花のようなものから森林のようなものに
変わっていることに気付く暘谷。
暘谷「あなた様は妃羽さんを愛しておいでなのですか?」
少し暘谷の方へ向き直る威俐。
あまりに
あまりに婚姻が早く、何か「事情」があるとしか思えません。
暘谷「(違う。本当はすぐに俺に相談してくれなかったのが厭だったんだ)」
カラン・・・
お酒か何かを少し呑んでいた威俐が言った。
威俐「愛してるが」
暘谷「・・・?」
固まる暘谷。
グオオォォーン.....
何だか今日の飛行機の音はうるさい。
暘谷「そういうことであれば、仕方無いですね」
小さい声で言う暘谷。
パタン.....
退室する暘谷。
・・・
「(何なんだあれはっ!)」
意味不明になる彼。
暘谷「(何も相談してくれなかったのはショックだったが
あの香は或るしるしだ)」
きっと、何かあるのだろう 多分だけど・・・
何かが・・・
孔雀さん。
妃羽「アナタは私と無縁だと思っていた」
心理テスト。
孔雀を選んだ人は「お金が最も大切な人」。
ぱさんっ
隠れ家の奥に閉まってあった孔雀の衣装。
同じく古い化粧品。
「(・・・威俐様をゆーわく・・・何考えてるの私)」
家出して2日目。
雄大で贅沢な景色の中、『空想の孔雀』を想像した妃羽。
思い切りお洒落をして、、
孔雀の服を身に滑り込ませた、、虚飾の夜へと繋がった。
下手な手つきでカクテルを作り、
背伸びしてポーズを作った。
「(孔雀なんて要らない世界なのに・・・)」
段々と眠くなる妃羽。
テーブルの上に上半身を横たえる。
威俐「・・・」
無言の威俐の姿が思い浮かぶ。
・・・
妃羽「(雲の上の人だけど、一度でいいから・・・
一度でいいから・・・綺麗って思われたい)」
世界なんて要らない。
何も要らないから
この『遺産』さえ手に入れられればいい、って・・・
身分の高い人間は身代金対策にGPSを埋めるケースが多く、プライバシー措置のために
本人が電源を ON,OFF に切り替えるという仕組みになっている。
威俐「(のを、妃羽は気付いていないな)」
一般市民だったのだから知るチャンスは少なくて当然な訳だが・・・
良く分からない・・・
愛の感情が良く分からず、
しかし本能的にという部分がある。
困ったな・・・(汗)
外は暗く、月だけが異様に明るく夜空を照らしていた。