小さな世界 > 第1章「妃羽」
偽物のような
バリッ
ビクッとする妃羽。
バリバリビリッ
バリバリッ
サングラスを掛けた男の手が見事に紙を破いていく。
しーん、と沈黙が続く。
妃羽が震えて言う。
「結婚て何ですか。私は赤の他人です」
コロンコロンッと石が転がる音が響く。
くるりと、白衣の男は回れ右をして妃羽に背を向けた。
そしてやや屋外になっている場所・・・
ベランダになる場所に出て言った。
空を見上げながら言う彼。
「・・・今はまだ詳しく言えないんだが
君はイヤかね」
ひゅうっ
一陣の強い風が吹いた。
ちなみに、ここは建築真っ最中の、建物の中なのである。
このふたり以外は、今は誰もいない。
カサッ...
床に散らばった、書類たち。
『我感致光栄, 但我拒絶』
(光栄ですが、辞退します)
無残に破かれている。
妃羽はかがみ、「但我拒絶」が書かれている紙きれを掴んで立ち上がった。
「・・・良く分からないです」
その言葉に、白衣の男が振り向いた。
男は後ろを向いたまま言う。
「君に選択権はない。
でも、あの方ならいいだろう」
妃羽はたまらず言った。
「何故私なのですか?!
意味が分からないし。教えてくれても!」
「(私はからかわれているのだろうか・・・
でもからかってどうなる・・・)」
カラッとした空気の中、
妃羽は答えた。
「・・・分かりました。
威俐様のお傍にいられるのなら。
・・・何でもいいです」
何か事情があるのかもしれない。
裏にいる人物、妃羽の血縁の誰かが、
威俐と何らかの関係を持っていて・・・
何かとんでもないことをしたのかもしれない。
それしか考えられない、と妃羽は思い、そして怯えた。
一体何をされるのだろうと。
上空では風がびゅうびゅうと、まるで遊びながら舞っている。
当然、たくさんの奥さんを持つのだろう。
それを想像すると体が硬くなり、
気が付くと顔を上げ、白衣の男に強く言い放っていた妃羽。
「た、たくさんっ奥さんを持つのですよね。そ、それはちょっと・・・」
言ってもしょうがないのだが、どうしても言葉が出てしまう彼女。
しばらく、サングラス(白衣)の男と妃羽は見つめ合った。
にらみ合ったという方が正しいだろう。
カンッ...カンカンカンッ.
鉄材が風に吹かれ、音を立てて転がっていく音。
妃羽はビクッとした。
ピーーーーッという鳥の鳴き声を背に、
白衣の男は言った。
「君だけだよ。分からない?」
え・・・と無声音で返事をする妃羽。
後ろで、カサカサッと人の足音がしたが、振り向いている余裕がなかった。
月夜の晩。
妃羽は窓から外をぼーっと見ていた。
ニャ~ア
窓を開けると、野良猫『ユウ(愛称)』がベランダにいた。
ユウ「何やってんのさ」 スタッと部屋に降り、妃羽の精神に語り掛けた。
・・・
猫って普通語り掛けないよね?
妃羽が情けない声を出す。
ユウ「いまさら何言ってるんだよ 疲れてるのか?」
ユウが言う。
妃羽「分かってるの。分かってるんだけど・・・」
ユウは妃羽がここに引っ越してきたばかり、縁があって部屋で看病して仲良く?なった猫であった。
喧嘩が好きな一匹狼で、(猫だけど)それゆえ縄張りのボスとしょっちゅう戦っているのである。
(喧嘩が強くてNo.1になれるが、ボスになりたがらない)
ユウ「・・・多分、運命ってやつだな。
多分、どう転んでも惹かれ合うっていうかな」
ユウはしっぽをパタパタ動かしながら話した。
前世とかそういうのではなく、何者かの意志なのだろう、と。
月が少しぼやけながら辺りを照らしていた。