小さな世界 > 第3章「ミルフィーユ」
『月光』
ロン。
妃羽「(何も感じない。冷たい感情)」
ピアノ室で夜にピアノを弾いている暘谷を、ドアの辺りから見る妃羽。
・・・
「おいっ」
テクテクと自分の部屋に戻ろうとした妃羽を暘谷が呼び止めた。
「何隠れてんだ(汗)」
振り向かずに妃羽は言った。
「えーっと・・・」
<すぐに>
妃羽「キャー!やだってー!」
妃羽を片手で捕まえ、ピアノの元に連れて行った。
ピアノの前に座らせて暘谷は言った。
「弾けば?
いっつも聴いてるみたいだし」
ギクッ
「み、見てたんですか・・・」
ポーンッ♪
♪
よしっ
指鳴らしの後に弾く妃羽。
♪♪~ ♪
♪
♪ ♪
暘谷「迷いが出てるな」
手を止める妃羽。
「あの、、この曲って『つかめない』んです
乾いてるっていうか
感情がない?っていうか」
ポロロン.....
妃羽のベッド。
ユウが隣で丸まり、妃羽は落ち着かないで横になっていた。
ピアノの弾けない暘谷が練習して弾けるようになった「月光」。
『俺はこの曲以外拒否する』と言わんばかりに当然のように何年も練習している曲・・・だ。
ライフワークか?いやそうだろう、と言うくらい。
(あくまでピアノ)
ずっと、一生(言い過ぎかも)忘れられないくらいの、
印象に残る、、弾き方。
感情が無いのに、妙にワクワクさせられてドキドキさせられて、
こっちばかり熱く(感情が)なってしまう、、
相手は間違いなく「感情が有るはず」で、こっちも感情がある。
のに、絶対的に「感情が無い」。
妃羽「(私も、、ああいうの、、弾けるようになりたい
ああいう弾き方・・・)」
そして、暘谷の「月光」を聴いていると、一気に様々な人間たちを思い出すのだ。
曲の中に人間たちがみんな隠れていて、
鮮やかにみなの顔が思い浮かぶ。
ティッシュを取って鼻をかむ妃羽。
「(また作曲活動しよ、、庭園のお手入れも)」
『あっ、こっちっすよ。ええ、ええ。
そうですねー。大丈夫ですよ。はい』
ほのぼのとした雰囲気の庭師の顔が思い浮かぶ。
妃羽「(寝なきゃ)」
ガバッ
妃羽「(寝付けない・・・)」
・・・
ポーン
ポポン.....
妃羽「(完全防音だから大丈夫よね
そういう問題じゃないけど・・・)」
ごくっ
ポロロポロ.....
「何やってんだ」
ギクッ!
楽譜の本たちをトントンッと揃える暘谷。
「まったく。電気が付いてるから何かと思えば。
真夜中にピアノ・・・」
ふぅ、とため息をつく。
あ、
あ、その。これは
妃羽は慌てた。
妃羽「どうしても、暘谷さんの『月光』に近付きたくて。
私頑張りたくて。
寝付けなくて弾いていたのは済みません・・・(汗)」
ポンッと「森林」の楽譜を軽く妃羽の頭に叩きつけ、
暘谷「俺もまぁ、ピアノ弾きに来たし。寝付けなくて。
少しやるか」
と暘谷。
パアァッと明るい顔になる妃羽。
弾いて下さい!月光・・・
・・・
暘谷「(まぁ、喜んでくれるのは嬉しいかな)」
少しまんざらでもない暘谷。
冷たくて、でも聴く人にとっては温かい音楽が部屋いっぱいに広がった。