小さな世界 > 第5章「知られざる」
G層
夜。
小さな召し使い部屋。
花宇の私室である。
花宇『尹 鴻日(いん ほんいー)さん?』
表に出ているのは「沙耶子」である。
(頭の中で話し掛けているのは「花宇」)
キョロキョロッ
沙耶子は辺りを見回す。
「たーばーこーないワケ?」
花宇『煙草なんてある訳ないでしょ!』
ふぅーん
ドサッ 詰まらなそうにベッドに腰掛ける沙耶子。
(ぼうじゃくぶじ、、
室内に流れている「月光」をしばし聴いているようだ。
曲に、何かを感じる沙耶子。
花宇『沙耶子さん、鴻日さんが?秘密管理人?』
・・・
先刻。
沙耶子「妃羽さんは主。G層の。背骨じゃないわ」
沙耶子を呼び出したばかりの頃。
花宇『え』
水滴の付いた窓にスナフキンの絵を描きながら沙耶子は言った。
1、A~G層全てが「主の世界」
2、でも、G層は妃羽が主でもある。
3、G層の主、を仮に妃羽にすると、
主と秘密管理人が重なるのは無理がある。
パチクリする花宇。
・・・
沙耶子の考察を紙に書いてもらい、読む花宇。
ふむ
花宇「(確かに・・・『主(この場合妃羽)』と
秘密管理人が重なっちゃうとこんがらがっちゃうもんね
主、が主人公でしかも秘密管理人・・・
無理あるなぁ。確かに・・・)」
『尹 鴻日よ』
冒頭に戻る。
バサッ
ベッドに身を横たえて沙耶子が言った。
「人数が多いから、すぐ潰されないように、強い力を持っている組織の人間じゃないとダメね。
そこに所属する、ナンバー2」
沙耶子は語った。
世界を裏で操っているのは中国。
中国を裏で操っているのは上海。
そして上海を裏で操っているのは魏家。
魏家の第2秘書『尹 鴻日』に行き着く、と。
ちゅ、
花宇『ちゅ、中国が世界を支配?きーたことありません。そりゃ好きですけど!
・・・でも沙耶子さんがそう言うなら。
(上海も魏家も、、そうなのかなぁ)
どうして、威俐様に行き着かないのでしょう』
♪♪ ♪
カチッ
♪♪
♪~
沙耶子「ん~♪やっぱクラシックよりポップよね~」
音楽を代える沙耶子。
「ほんとーの権力者を『秘密管理人』にしたら世界勢力変わっちゃうでしょ!
何言ってんの」
花宇『あ・・・』
「暘谷氏は実直すぎてベラベラ話してしまうかもしれない。
鴻日氏なら秘密を守りそう。野心も強そうだから余計ね♪」
ポップの音楽が静かなものに変わっていく。
音を小さくしよっ、と沙耶子が立ち上がった。
カチカチッ
花宇『?』
♪ ♪
♪♪~♪
♪♪
♪
『月光』である。
花宇『麗海(りーはい)さんとかは・・・』
沙耶子「可能性はあるけど。余裕ぶりを見ていると鴻日氏が怪しいわ」
花宇『(そんなに簡単に・・・分かるものなの?)』
例えIQ210とは言え、すぐには信じられない花宇。
世界を中国が牛耳っていたなんて。
私の設定を「中国育ち」にしたA層、B層にした人たちは何かを感じてそうしたのかも。
上海とか。魏家とか。
花宇『(いいのかなこういう知識。危険な気が・・・平和に過ごしたい)』
でも。
ビカッ
雷が鳴る。
全然怖くない。
音楽もあまりない、精神愛も薄い、生きたい生き延びたい、そして生命を脅かすほど未生命が貪欲になっている。
・・・
そういう世界は、「力」というものに守られた組織にいる人間が『秘密管理人』にならないといけないのかも。
それでも
そうだからこそ、きっと「幸せ」が何億倍もの希少品になる。
「寝るよー」
沙耶子が言った。