小さな世界 > 第6章「休息」
バランスが
その日も、庭の手入れを怠り、ひたすら『森羅万象』のCD作成をする妃羽。
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「(主さんの、願いって『G層を現実にする』というのと、
私・・・つまり主さんと威俐様が一緒になる、というの、だよね)」
♪♪
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鍵盤を叩きながら妃羽は思う。
妃羽「(威俐様は威俐様の意思がある。
シナリオ通りに動くのではなくて、あの人の意思で行くべきだと・・・)」
チャラランッ.....
ずっと考え事をしながら『森羅万象』を弾いていた。
「え?」
いつの間にか終わっている曲。
妃羽は驚いた。
録音した曲を聴いてみる彼女。
「(かっ完璧!え?!)」
『おまえのピアノはやっぱりすごいよ
本当に・・・』
あの時の暘谷の言葉が蘇る。
わぁっ
両手を合わせて笑顔になる妃羽。
「(これで作成完了。やった)」
荷物を片付けながら妃羽は思った。
妃羽「(もしかして、、『森羅万象』って
・・・想い・・・なんじゃ。威俐様の)」
上手く弾けなかった昨夜。
何もツッコみを入れずに魂を入れるかのようにしていた威俐。
上手く定まらなくて、まだ不安定だった『森羅万象』。
完璧に弾けた時は「自分の想いを込めて」ではなくて、威俐の意思、を考えて弾いた時だった。
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え?
正はうなずいた。
「そ、そんな。・・・でもそういう約束でしたね」
正はかつて言ったのだ。
妃羽の音楽はこの世界の人間たちを少しおかしくさせてしまう。
・・・
「ピアノを控えた方が宜しいですね」
正が言う。
ただ、
「愛、が良くなっているような気がします」
比較的優しい笑顔で正が言った。
・・・
ふたりは思い出す。
あの日。
『威俐様を愛していない』
『もっと言うと誰のことも愛してない』
正は穏やかに言っていた。
(穏やかに言うべきことか)
妃羽「物質と精神のバランスが良くなったからかも」
正「え?」
慌てて妃羽が言い直す。
「あ、いえ。バランスが。取れて来たのかなと」
妃羽私室。
荷物をドサッと部屋の隅に置く妃羽。
愛に支障がきたしていたり、精神主義だのが不安定だったのは
「力」に対する抗いだった。
それが無くなりつつある今、『独立』し掛けているからだろう・・・と
妃羽は思う。
「(私は主さんの分身だけど、本当の目的までは読めない。
G層は・・・どうなって・・・)」
威俐は日に日に妃羽に甘えるようになった。
変な意味ではなく、言葉そのままである。
「(バランスが取れてるのかなぁ 精神と物質の)」
愛、と触れ合い(スキンシップ)。
妃羽もそれに応えた。
まるで寄り添いあう、猫の兄妹のようである。
花宇は清掃しに部屋に入った時に偶然その姿を見てしまった。
あ!
慌ててドアをそっと閉め、「(部屋間違えた)」と思う彼女。
・・?
少し経ってからくるりと先程の部屋を振り返る。
?
不思議な違和感を感じる花宇。
その日の魏家は、のほほんとした空気で包まれた。


