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ヴィンセント―1―



彼の名はヴィンセントと言った。

若かりし頃、彼はまだ男前であった。


カツンカツン

灰色の、冷たい床。


道路をそんな風に思ったのはいつの頃からだろう。


「(土の上を歩く方が好きなんだ)」


森林の所の木の葉の上をサクサクッ とかね


川が流れている両脇の草の上をテクテク とかね




お母さん


「いやね、やめて頂戴」

私、「ママ」って呼ばれたいの


「お母さん、っていかにも老けてる感じがするじゃない」

そうかな

「だからね、「ママ」って呼んで。

ずっとよ」


お母さん、


それだと、僕 バカにされるんだよ

ママって呼んでるーって


「まぁ、誰なの、そんなこと言う子は」

ううん 何でもない


「ちゃんと言うのよ。ママが守ってあげるからね」


僕は自分のこと守れるよ

いやね、大丈夫よ、無理しなくて


守ってくれなくてもいいから


だから もうおもちゃとか買わないで


「なんで?嬉しくないの?」

あんなに高かったのに

いくらしたと思ってるの!


お母さん、僕が欲しいのはお母さんのち、、、


ち?


何でもない。


あはは、血、じゃないでしょうね

っていうか、、お願い。 ママって呼んで。




ちゅー、って言おうとしたんだ

でも バカにされるから、、




「おい、あいついい歳してお母さんのことママって呼んでるんだぜー」

「俺なんか かーちゃんって呼んでる」

「まぁ普通そうだよな」

「みっともねぇなー」

ギャハハハハハ


ヴィンセント「(何とでも言え)」



俺には色々ある。

親父とか家とか財産とか 権力とか


「(だからいいんだ)」



きっと絵に描いたら恐ろしく面倒臭そうな、

豪華な豪華な家。

わさわさ動き回っているお手伝いさんたち


ひとつでいいのに、あちこちに飾ってある色んな風景とか人物の、絵。


「(額縁の分減らしたら少し壁スッキリするのに)」



優しい顔をした、茶色い髪の清楚そうな母親。


表向きはそう装っているのに、


「(実際は悪魔なのを知っている。それも恐ろしく邪悪な)」


この家がそうなように。


きらびやかなのは表面上だけで、内面は・・・。




俺は、外見と内面が直結していないことを知っている。

外見ヅラには絶対に騙されない。




違う。


外見と内面は直結している。

肉体と精神が直結しているのと同じように。


直結していないのは「悪魔に魂を売り渡した「人でないもの」だけである」


彼はその複雑な家庭環境から、間違えた価値観を植えつけられてしまった。




父親もまた、厳格で それ故ヴィンセントに辛く当たってきた、、というか

あまりいい対応をしていなかった。


私の顔に泥を塗るような真似だけはしてくれるなよ


そんな風に威圧を掛けて、ことあるごとに彼を押さえ込もうとしてきた。


様々な期待。

強制的にクルセイダー系職にさせられ、王宮警備の部署に配属させられた。

(※クルセイダー=剣士の発展職、警護兵)


そんなもの、自分で稼いで努力して手に入れたいのに、

どんどん豪華な武器・防具を頼みもしないのに買い与えてきた。


「父さん、これじゃあ僕はどんどん駄目になっていく!」


「何、それじゃ不満か!」


違う


でもそうだ

母さんも。


でも買い与えられたら、、


それが当然になって 当たり前になって


俺は きっと・・・ 



父親は黙って聞いている。



「悪魔のような人間になってしまう」



ニッコリ笑って、それで人を騙して、、それで物を買い与えるような

「そんな人間に・・・」


ニヤリと父親が笑った。


「それはそれでいいじゃないか」


ヴィンセントは戦慄が走った。



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