勇気を出して、「中を覗いて見よう」と、名乗りを上げた神々(全部男)
が、だらだらと汗をかいて震える手で岩の中の隙間から中を覗いた。
アマテラスが、自分だと分かるようにちゃんと岩の隙間にピチリッと顔をくっつけているのだが・・・
見えそうなのだが、ぼんやりしていてちゃんと見えない。
服は見える。ほんの少しだけ。
顔は・・・見えそうなのだけど見えない。
でも全く見えない訳ではなく。
怖さも忘れてずーっと「アマテラスなのか」という疑問を解消すべく彼女だと確認しようと思うのだが、
諦める―・・・
確かめる男神、皆そうであった。
・・・
珠造職人(たまつくりしょくにん)。
「(ま、まさか。あの洞窟にお入りになるなんて)」
あの中には、、一番良く作った勾玉を・・・生涯の傑作の勾玉を、
誰にも取られないよう、何があっても壊れないよう、こっそり置いといたのに。
今、名乗りを上げたいけど、こんなに何百柱もいる中で何か言ったら大騒ぎになりそうだ。
彼は、オロオロと見守るしかなかった。
何か良い案は、、と考えているうちに、
「はーい!」
と、元気の良いおばあさんが手を上げた。
彼女は鏡職人で、
元人間なのだが、様々な理由があって、
天津神になったという神である。
イシコリドメ「鏡で映してみたらどうでしょうか。なんなら、鏡、作りますよ」
おお、鏡という方法があったか!
と皆は思った。
急いで、完璧なものを、二時間で作ると彼女。
早速自分の住み処に戻って行った。
神々たちは、代わる代わる、自分たちの鏡を洞窟の隙間に入れ、アマテラスの顔の確認をしようとした。
が、何故か全然、アマテラスの顔が鏡に映らない。
ほんの少しぼや~っと何かが映る程度だ。
その様子を、ツクヨミが月明りを強くしてそっと見守っていた。
いつの間にか夜になっていたのだが、
彼は月を通して、遠隔操作でこの様子を見ることが出来たのだ。
皆が極めて不安定なことを言い出して騒がしくなる頃、
「出来ましたよー」
とイシコリドメが気楽な感じで、立派な鏡を差し出して来た。
ピカーッ!
神々から驚きの声が上がる。
アマテラスの美しい顔が、そこに、鏡に映し出されていたのである。
皆が大岩をガガッと開けた。
テンションが高いゆえの「火事場の馬鹿力」と、
大人数パワーである。
数十分後―
洞窟の勾玉の前に、
タマノヤとイシコリドメとアマテラスと、何十柱かの神々がいた。
洞窟の外には、心配そうに見守っている神々たちがやはり洞窟が怖くて、用心しながら見守っていた。
タマノヤは話し始めた。
「昔、偶然、この気味の悪い洞窟を知ったのです。
ここなら、誰も気味悪がって来ないし、何故か災害にも遭わないと思いました。
・・・で、或る時、生涯の傑作が出来たので、
本当に大切に残しておきたいものなのだったので、、」
カミムスビの子供の、とてもとても小さい神様に頼んで、それをこの洞窟に入れてもらった、と語った。
カミムスビのその子供は、とても小さいので、隙間から普通に入ることが出来たと思われる。
勿論タマノヤは洞窟には入っておらず、外側からすでに「普通じゃない」という雰囲気を感じたのだと言う。
同時に、何者も侵入出来ない、特別な場所というのを察知した。
皆は、そのあまりにも美しい勾玉に、話をあまり聞いておらず、ひらすら見とれた。