オオナムチの話に戻る。
彼は妻問いを続けていた。
ある海沿いの道、オオナムチは背の低い小柄な少女と歩いていた。
かなり疲れているようで、棒を両手で持ってフーフー息をつきながら歩く。
「・・・なんかさ」
ん?と相づちを打つ少女に答えるオオナムチ。
「こんなに多くの女性に子を作らせるとか
かなりいい加減な男として・・・
名を馳せちゃうのでは」
と言うオオナムチ。
すぐ横で海の波の音が聞こえる。
横の少女は目をくりっとさせながら可愛く答える。
「大丈夫ですよ。私を大切にしてくだされば」
一か月前―・・・
妻問い中に、中国地方のどこかで疲労のために倒れてしまっていたオオナムチ。
時は昼頃で曇っており、倒れていた場所は海の傍。
砂浜のような場所。
行き倒れという程ではないが、気分的なものもあり、
何となくうつ伏せでドタリ、という格好で休んでいたら、
大丈夫か、とある少女に声を掛けられたのである。
初め、妙な感覚に陥り、黙ってしまったというか、呆けてしまったオオナムチだったが、
やっとその少女と話し、そしてその少女がスサノオの娘であることを知り
住んでいる邸に行った。
その家は床となる部分がとても高くつくられていた。
現代で言うところの、
『一階が車庫になっていて、二階が住居。
・・・になっていた場合の、車庫がない』
のような造りで、
かなり大きい。そして奥行きがある。
スサノオはどう考えても
少女の兄としか思えないような、少年と青年の間のような見た目をしていた。
[ 説明 ]
1、天津神(高天原に住まう神)は歳を取らない
2、国津神(葦原中国に住まう神)は歳を取る
3、寿命が来れば、黄泉の国に行き、そして肉体が消える。
4、魂だけになった国津神はそのまま、黄泉の国か葦原中国に住まう。
外見はそのまま、内側の精神年齢が反映される。
オオナムチは「自分がその血脈を広げなければならない張本人」そして「六代上の御先祖様」、
スサノオに会うことに緊張していたが、
十六歳くらいの見た目に驚いた。
スサノオは(現代の感覚で言うと)中学生以上高校生未満のような見た目、
オオナムチは子孫にも関わらず、若いのだが若すぎることもなく、かといって歳を取ってる訳でもない
二十八歳くらいの見た目である。
少女は十四歳くらいだろうか。
オオナムチは今までのことをスサノオに説明した。
スサノオにとっての五代下、つまりオオナムチの父のこと。
スサノオの血を絶やすまいとしたこと、妻問いをしている理由、子供のことなど。
話を聞いて、スサノオはツクヨミの落ち着きをオオナムチに見た。
自分の子孫なのだから、自分に似るはずなのだが、
自分の兄の雰囲気に似ている。
伯父と甥が良く似る現象の、はしりなのかもしれない。
「子孫にそんな大変な思いをさせているとは―・・・
なんか申し訳ないな」
と前置きをして、スサノオは横にいる少女を紹介した。
「私の娘、スセリヒメだ」
スサノオは話し始めた。
「・・・クシナダヒメが寿命を迎えた時、
丁度『猫』という動物が出始めた頃で・・・」
少女は少し緊張しているようであった。
三人の中央あたりに置いてある灯りは、小さいはずなのに不思議と部屋と程よく
明るく照らしていた。