「絵本?」
ツクヨミは驚いた。
アマテラスは顔を明るくして提案する。
私が ― 本の装丁をする。
文章はツクヨミが担当、挿絵をスサノオが描くの。
私は機織りが得意だから、器用なの。
きっとキレイな本を作るわ
と。
「絵本 ― 三柱の心を込めて作った本。
文字と絵と丁寧な装丁で、血を繋いで行くであろう子孫たちに、
伝えていく、どうだろう」
いつの間にか立ち上がっているツクヨミとスサノオがハッとした顔をする。
それはいい、と三柱とも意見を合わせた。
アマテラスの長男オシホミミが、繁栄の神を創った。
その神が、葦原中国に降り、山の神の ― つまり国津神の ― 娘と婚姻し、男子が生まれる。
その男子が今度は海の神の娘と結ばれる。 ― そして生まれたのがウガヤフキ。
ウガヤフキの子が、イワレビコ ― 。
その流麗なツクヨミの文字に、スサノオが美しい挿絵を載せる。
現代の我々の感覚で言うところの、紅葉が乗っている水の流れが刺繍されている着物が出来上がるように
絵本は作られていった。
三日後、巣実於部屋で待ちわびている、ツクヨミとスサノオに、アマテラスが声を掛けた。
絵本が出来たのである。
この絵本に、歴史となる「設定されたアマテラス ― イワレビコの系図及び、それに至るまでの話」が
書かれてある。
その後の話し合いにより、
アマテラスという直接の存在ではなく、
弟のツクヨミが、代々のイワレビコの子孫に絵本を渡していくことになった。
次の世代の統治者に代わる時、それまでの統治者の元へ行き、
絵本を回収する。
そしてー・・・
次の統治者が即位した時、その夜にツクヨミが現れて
絵本を渡す。
樹の子孫たちが、幾重にも重なる根を、
上の世界から落ちた枝が、下に零れ、
その樹の根が千代に、八千代に、深く日本列島の深い穴に絡まり
上の世界から下の世界のアマテラスを見た時の
その視点を認識出来る程に
深く、その根を絡めて
この世界を日本から覆い尽くし 根で以って「証」を残すために
ずっと根の子孫たちを見守って行く
アマテラスは思う。
「いつか、真実を本当は・・・」
絵本を読んだ子孫が、誰かが気付く日まで、
絵本を渡し続けると
葦原中国を見ながら、手を伸ばし
落ちて行く感覚を想像する彼女。
目を細める。