伊波礼毘古(いわれびこ)。
後の神武天皇である。
ある早朝、幼馴染の伊須気余理比売(いすけよりひめ)と、森の中で、座りながら森林浴をしていた。
伊波礼毘古(いわれびこ)
=以下、イワレビコ
伊須気余理比売(いすけよりひめ)
=以下、ヨリヒメ
この頃の紫外線は柔らかく、生命に悪い影響を及ぼさなかった。
ふたりは昔からこの付近で良く遊び、かけっこの早いヨリヒメが
『イワちゃんおそーい』と言って山の奥まで駆けてゆく。
それを、何故かイワレビコは追いつけずに、ゼーゼーしながら、やっとヨリヒメが待っているところに辿り着く・・・
そういう想い出ばかりであった。
その山で、
「今や、かけっこは俺の方が上だぞ」と心の中で言い、
イワレビコとヨリヒメは森の空気を気持ち良さそうに吸っていた。
ヨリヒメ「そういえば、三種の神器、この山でもらったって」
・・・
イワレビコ「ああ、そのことか」
彼は話し出した。
小さい頃の話を。
あれは、まだ可愛い顔をしたイワレビコ、三歳の頃であった。
(女の子のようだった)
先程の「山」の中で、
目の前の少し遠くあたりから、イノシシが現れたのだ。
驚いたイワレビコは逃げようとしたのだが、
イノシシは即座にキバが落ち、鋭いヒゲたちも落ち、体毛もバサッバサッと抜けていった。
ブタだ!
イワレビコは驚き、驚いたポーズのまま固まってしまった。
そしてそのブタは近付いて来て、イワレビコが瞬きをした瞬間にイヌに変わった。
イワレビコは体の力が抜け、そのままイヌに向かって行った。
触れようとした瞬間、やはり瞬きをしたのだが、・・・ネコに変わっていた。
不思議な出来事なんて忘れ、すっかりイワレビコはネコを抱っこしてネコに夢中になった。
そして目を開けた瞬間、小さな可愛い(とっても小さな)女の子になっていた。
驚いて、ぶんっ!と放り投げ、がくがく震えていると・・・
やはり瞬きをしたせいだろうか、
とても・・・神々しい女性が目の前に立っていた。
『(こ、こんな、す、す、す、素敵な人が存在するなんて・・・)』
現実離れした光景に、少し笑えてしまう彼。
不思議な雰囲気を持っている女性だ。
恐ろしさなんて、不条理な出来事なんて忘れ、
イワレビコは女性を見上げた。
・・・
女性はイワレビコに、三つの可愛い小さなものを渡した。
家に戻れば、それ相応の大きさになるわ
少し微笑する女性。
少し経つと、ふたりは、その山の「座れるような場所」に座っていた。
脚から下が、段々と低くなっており、そこから子供がごろごろ転がれそうな場所、である。
そこで、女性はある絵本を読み聞かせしたのだ。
イワレビコは『僕、お姉さんの五代下なんだ!』
『ええ』
女性は答える。
三歳の男の子が、何故先祖が子孫に会いに来れるのか?とか神だの天だの疑問を持つはずがなかった。
ただ、「そんなもんなのかなー」と思って納得した。
女性は絵本をイワレビコに渡した。
『これは、あげます。みなに、教えてあげてくださいね、この物語を』
待ってください。質問があります。
イワレビコはパラパラ絵本をめくって言った。
何故、ひい祖父様は女を顔で見たんですか?
これで寿命が出来たんでしょ?
わだつみの宮(竜宮城)ではどうして息が出来るのでしょう
子供は、分からないことを大人に全部聞く。
イワレビコもそうであった。
『それはね、こういうことよ』
女性は丁寧に説明していった。