第15話:雲間から
いつの間にかおじいさんも、それまでは薬草やら清潔な布やらを綺麗にまとめて、
それらを包んでいたりしていたのだが、・・・宝剣について語っているのを聞いて
クシナダヒメたちの傍にやってきていた。
スサノオは注意深く、剣を抜いていった。
確かに、キラキラ光っている見事な剣だ。
そして大蛇の首をはねた時の血がうっすら残っている。
「ん?もっと立派な剣だと思ったのに」
拍子抜けするスサノオ。
クシナダヒメは遠い目をした。
不思議になったスサノオが問い掛けると、
ひと息ついて彼女は話した。
「それは、恐らく天上のものです。
何故ここにあるのか分かりませんが」
地上では、『素晴らしい』と感じることが出来ない。
素晴らしい、の域が高すぎて、地上ではただの剣にしか見えず、
天上ではその素晴らしさが見えるだろう、、と。
呆気に取られるスサノオ。
おばあさんが付け足す。
「このこは、ずっと人形とぬいぐるみを、たくさんたくさん、造ってきました。
そういうことをしているうちに、色んな法則、万物の掟などが見えるようになったのです」
ちなみに、神様は、あるものの『名前』を知ると
その存在の姿かたちが七割視ることが出来る。
おじいさん「天上の神様のぬいぐるみを作っていたもんな。
そういう時は集中して神様の顔だの服だの小物だのを書きとどめて、それをじーーっと見て
作って」
作っている神、例えばアマテラスを作っている時は
(人形は「造る」、ぬいぐるみは「作る」)
アマテラスがどういう視点でものを捉え、どういう気の流れの中に身を置いているのか・・・
が分かる。
まるで針のように、その神ばかりを考えて「人形(ぬいぐるみ)」を造るためかと思われる。
スサノオ様
「それは天のものです。
雲間から落ちて来たものでしょう」
やや険しい顔でクシナダヒメが言う。
「じゃあ天に還す!」
スサノオはキリッと言った。
ガタッ!と地震のようなもの起き、皆が驚いた。
少し緊張感が取れ・・・
「名前を決めようか・・・う~む」
スサノオは悩んだ。
手は痛くないのか?というほど普通に
ごろんごろんごろん、と転がるスサノオ。
おばあさんが天を指さして言った。
「そうだ!
・・・天の、雲の間から、雲の集合体から
えーと『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』
なんでどうだろう」
天の、雲が集まっているところから降りて来た剣、という意味であろう。
その強すぎる剣があると、また穏やかでないことが起きてしまう、、と
クシナダヒメは、剣を天上に、つまり高天原へなるべく早く還すことを提案した。
起き上がって、スサノオは
「いいんだけど。・・・あの大蛇は腐らないの?」
と聞いた。
この剣で確信が持てました。
あれはただのヘビが神格化したもの。
呪いが解けた今は、あのヤマタノオロチも、普通のヘビの体に戻るでしょう。
と、クシナダヒメ。
只ならぬオーラを感じ、すんなりと納得するスサノオ。
「(この女の人の言うことなら、信じてもいいかも)」
と思う。
はい。根之堅洲國(ねのかたすくに。根の国)へ。
次なる行き先を聞かれ、答えるスサノオ。
高天原の姉・アマテラスに剣を献上し、この近くにある「根の国への入り口(のひとつ)」から入り、
根の国に行く、という主旨を語った。
「今日はゆっくりお休み下さいね」
クシナダヒメは柔らかな笑顔で言った。
第4章:葦原中国での話「第15話:雲間から」
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