第3話:皮がはがれた子ウサギ
ヤガミヒメの家は、とても大きな家、、というか大屋敷で。
歳を取った両親がいた。
事前にフユキヌが話を付けていたので、
ヤガミヒメの両親は笑顔で「どうぞどうぞ」「ごゆっくり」と
落ち着いて男前なオオナムチを迎え入れた。
すぐに食事の時間になり、
オオナムチは向かいにヤガミヒメが座る形となり、
何かを話そうとしたが、終始ヤガミヒメが暗い顔をしている。
貧血か失恋か?とオオナムチは見て見ぬ振りをして
色々考えた。
が、時間を経つごとにヤガミヒメの顔は悪くなってゆき、
時折り、涙が光ったりしていた。
人が話し掛けるとすぐに笑顔で答えるのだが・・・
しばらく黙っていたオオナムチ。
「ヤガミヒメさん」
と目をつぶって下を向いてもぐもぐ山菜を食べながら声を掛け、
「何かあったんですか」
と静かに言った。
ずっと、下を向いて目をつぶったままである。
ハッとしてヤガミヒメは少し顔を乗り出した。
全く人の領域に入り込まない、優しい問い方に、彼女は心の扉を開いた。
「じっ実は!」
ごそごそ、とオオナムチは母親から持たされた、でかい袋の中を漁った。
ここはヤガミヒメの部屋である。
木箱で出来た箱に幾重にも布が敷いてあり、
その上に、皮をはがれたウサギが横たわっていた。
ヤガミヒメは涙ぐみながら、
「今は・・・眠っているから、痛みから(少しは)和らいでいるかと思いますが・・・
こんなことにっ、、なってしまって・・・」
目をぐっ!とつぶり心から悔しそうに、悲しそうに、苦しそうに、辛そうに・・・
ヤガミヒメは泣いた。
鼻は赤くなっている。
オオナムチはことのあらましを聞いて、なお落ち着いて、薬や薬草を取り出し、
そして横にある、消毒用の熱いお湯の湯気をそっと肌で感じた。
少し稲穂に似ている薬草を振りながら、
「まず痛み止めですね」
と言ってさっさと乳鉢に乳棒で薬草や薬を混ぜて、
様々な乳鉢を混ぜに混ぜて、ウサギに手慣れた感じで軟膏を塗りたくった。
その都度その都度手を洗い、
水で洗うのは痛みが取れてから、と
痛みを取り・・・
ウサギはだいぶ三日後には良くなった。
とりあえず、毛はともかく痛みは無くなり、水で洗うことは出来るようになり。
オオナムチ「・・・消炎剤と、後は皮膚再生に効くもの、粘膜や皮膚に効く○○を・・・」
彼は大きな屋敷には似合わない、小さなヤガミヒメの部屋で、そっと栄養のあるものを
ウサギに食べさせた。
両親は全てを承知で、ずっとオオナムチを泊めた。
「ウサギがもし亡くなりでもしたら、うちの娘はどうなってしまうのかしら・・・」
妻は少し涙ぐんで心配していた。
十日もすると、すっかりウサギは元気になり、
可愛らしい真っ白いウサギになった。
皮をはがれた姿しか知らないオオナムチはさすがに驚いた。
通常はこんなに早く、皮をはがれた状態で元通りには戻らないが、
神の世界だから、、なのだろう。(ということにしておいて下さい)
ニコニコ笑顔を作りながら、ヤガミヒメはお礼を言った。
まだ白いウサギの変わりっぷりに驚いているオオナムチは、い、いえ・・・というのが精いっぱいだ。
さて、皮がはがれている理由と言うのは・・・
ヤガミヒメは言葉が分かるか分からないのに、
よく夜に、可愛がっているウサギに、常世(外国)のお伽噺を話して聞かせていたのだが・・・
その中に、ワニ(サメではないです)の数を数えようとしたサルが、最後にいたずらしたんだよーと
からかい、ワニに皮をはがれる、という話があり、
真似をしようとしたところ、同じ目に遭ってしまった・・・という訳だ。
第5章:大国主の話「第3話:皮がはがれた子ウサギ」
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