第4話:ヤガミヒメ邸
時が過ぎ―・・・
ヤガミヒメは四人の男子と、双子の女の子を産んだ。
勿論、妻問い云々について、子をたくさん残さないといけないことについては
全てフユキヌ及びオオナムチに聞いているので、
子供をヤガミヒメともうける以外に、あちこちと情報を得るたびに、
様々な女性に子供を生ませることは・・・皆知っていた。
医術に心得のあるオオナムチは、医術で旅路を過ごしつつ、妻問いをしているので、
年に数回ほどしか帰って来なかった。
※念のため。
妻問いを分かりやすく言うと、
女性の元に通う、という形式の結婚。(事実婚・・・)
女性に子供が出来たら、全て女性の実家が子供の面倒を看る。
全ての事情を話し、子供を生んで下さい、
と頼むのだが、
スサノオの子孫という素晴らしい血筋と、品のある雰囲気、くたびれた、ギラギラしていない落ち着き。
頼まれた領主たちの半分くらいは、その申し出を受けた。
「(それでも、なお足りない・・・)」
八十人以上の子供を作るためには。
ヤガミヒメ邸
ヤガミヒメが生んだ、
と姉の
彼女たちはもふもふの白い、少し大きめの犬と遊んでいた。
彼女たちは、近々建設予定の、花にまつわる社の巫女になるべく、
勉学に勤しんでいた。
勉強をさぼるので、よく長男でふたりにとっての大兄・・・
注意を受けていた。
サクヤヒメは花が咲いて最も美しい時を表す女神で、
ユイミヒメは、花が咲くのが落ち着いて、実がなる様子を表した女神だ。
「石長比売(イワナガヒメ)って呼んじゃおうかなー」
サクヤヒメとユイミヒメは穏やかに過ごしていた。
一方コトシロ―・・・
いつも切なそうな顔をして毎日を過ごしており、
オオナムチの代わりに年老いたヤガミヒメの両親(つまり祖父母)の代わりに領主として・・・の
責任を背負っている。
本当は、領主なんかなどではなく、
何か専門の仕事に従事したい―
そう思っていたコトシロ。
何かを管理する仕事、
農作業、
今で言うお役所関連の仕事。
釣り人・・・
「(本当はそんな、歳を取った後にする趣味、なんか
莫迦にされそうなのは百も承知で・・・
アレをやってみたい。
アレが憧れなんだ―)」
ずっと、誰にも言わずに釣り人という仕事をしてみたいと、密かに思っていたコトシロ。
思い切って、領主の仕事は自分たちに任せて、
好きなことをやってみたらいかがでしょう?と、
ある日サクヤヒメは、勇気を出してコトシロに提案してみた。
ずっと、兄のことを察しつつも、どうしても言えずにいたサクヤヒメとユイミヒメだったが、
とうとう言ったのだ。
妹はふたりは巫女の仕事をしなければならないし、とてもそんなことは、とコトシロは静かに断ったのだが、
サクヤヒメの兄想いの気持ちが勝り、
コトシロはしばし考え込み、立ち上がって「少し考えさせてくれ」と言ってその場を去った。
領主の仕事は生半可なものではないし、
とても務まるかどうか分からないが、
兄は何かを犠牲にしてまで領主をやるべきではない、とサクヤヒメは思った。
邸内は風通りが良く、さらさらと風が心地よく彼女の顔を撫でる。
使用人と、姉のユイミヒメが一生懸命掃除して整理整頓した邸内はとても美しく、きっと他の人間が邸を見たら
ずーっと見てしまうであろう。
海を眺めているコトシロの後ろから、ユイミヒメが声を掛けた。
「釣りがなさりたいなら、ご存分になさるといいわ
サクヤもそれを望んでいるし
お兄様、いつも海を見ているのだもの」
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