第10節:相撲
第2話:追う風
数日後―・・・
海の近くに小屋を建て、
そこで完全にミナカタが回復するまで、
コトシロとミカヅチは看病した。
ミナカタは、被害者のはずなのに
ハラハラしながらいつもミカヅチを見守っていた。
看病中、ミカヅチはずっと青い顔をしたまま、
御免ね、御免ね、
と謝っていた。
下を向きながら。
神という種だからか、傷の治りは人間と違ってとても早く、
ミナカタは一か月もするとほぼ完治し、腕の付け根をぐるぐる回して
柔軟体操をした。
小屋は、青くなりながらも海の近くの林の木々をササッと切り、
手際良くミカヅチが作ったのである。
後付けで寝台やら箪笥もどきやら、・・・色々。
食べ物や衣類などもたくさん持って来た。
人間の長の所に行き、やっかいな荒ぶる神をやつける代わりに
たくさんブツを仕入れ、、という訳だ。
ミカヅチの罪悪感による青い顔を見るたびに、
コトシロとミナカタは本当に心配した。
スサノオは配分が9:8だから仕方がないが
スサノオがいなければ、ミカヅチは高天原、葦原中国含めて
最強の存在なのである。
そもそも造化三神の中の大樹の神、高御産巣日神(愛称:タカミムスビ)を
弑するために創られた神なのである。
組み合うどころか、少し体が当たって少し触れただけでミナカタが宙に舞い
グルグルッと空中で回り、複雑骨折させてしまう・・・
そんな力を持った自分を思い、ミカヅチは何度もじわっと涙を浮かべた。
一歩間違えれば人や神を殺してしまうし、それどころか相撲ひとつ出来ない。
スサノオをとっつかまえればいい話だが、
変な話、スサノオとしかやりあえない。
ミナカタは涙するミカヅチを見て思う。
「(君は、優しすぎるんだ。強い存在は優しいからな―・・・
相撲のひとつもさせてあげたいが・・・どうしたら・・・)」
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ミカヅチは魂を分割させ、人間に生まれ変わると宣言した。
ミナカタは「(それはいい!)」と顔を明るくした。
そしてミカヅチのために、・・・人間に生まれ変わった時のために
相撲の様々なルールやら階級やら決まりなどを作って
晴れ舞台を作ってあげたいな・・・と思った。
・・・
谷風。
江戸時代の力士である。
初代と二代目がいる。
風神、ミナカタの魂分割での生まれ変わりであり、
ミナカタの記憶をうっすら残した大横綱だ。
一方―・・・
子供に恵まれず、道端のお地蔵様に
「逞しい男の子をお授け下さい」と拝む女性に
優柔不断にずっと人間に生まれ変わらずにフラフラしているミカヅチが
力を与え、
鬼のように強い子が生まれた。
これが雷電(らいでん)である。
雷神、ミカヅチが力を与えた子であり、
歴史上最強の力士であるにも関わらず、横綱になれなかったという人物だ。
谷風(ミナカタ)は、記憶保持が二割切るくらいではあったものの、
追い立てられるように、無意識で力士になって相撲のルールや決まり、様々なものを作った。
夕闇と夜の間くらいに、藤棚のような場所(藤が掛かっていない藤棚)を歩きながら
前に見える篝火(かがりび)を目指し、・・・
そんな生き方をしていた。
・・・しかし、ミカヅチは生まれ変わらなかった。
生まれ変わっても、ミナカタを殺してしまいそうになったように、
また殺してしまうかもしれない、という大きなトラウマが、
彼を中有(ちゅうう。人が死んでから、次の生を受けるまでの世界。空間)に
漂わせていた。
第7章:その他「第10節:相撲 ー 第2話:追う風」
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