第3節:改名
第2話:言霊
中臣命は何度も忠告をしてきた。
自分は主人思いで、アマテラスに暴言を吐いてまで忠誠を尽くしてきた。
そんな暑苦しい思いは、葦原中国の気に影響し、何かを生み出してしまうかもしれない。
害のないものならいいが、人に迷惑を掛けるものなら大問題だ。
「中臣」という名前が出来たこと、自分とそっくりな顔の若者が出来たこと。
これらは偶然という線もあるが、ほんの少ーしくらいは何か影響を受けた結果なのかもしれない。
私の影響に拠るものが万一少しでもあれば、ひとこと忠告をしたい。
主人の命令は絶対だ。
何があっても。
命より大切なものだ。
私の影響を受けた者として―仮の話で、するが、
最上の家来として、いるという事が私には分かる。
そうあって欲しい、君たちも。
あの日―・・・
何とかしたい、と思い、そして願いを叶える力―
それがおまえの力だ。
俺にはない―
君には君の生き方がある。
応援してるよ
夜になり、部屋には灯りが灯された。
暗い暗い顔で中臣命が言った。
「あの方が言った。私には実現可能の力がある、と―
言霊がきっと大きく働いただろうから、
今頃とんでもないことに―」
口を開けたまま、何も言えずにいる史。
ぱっと顔を上げて中臣命が言った。
「だから!
危険なことを考えてはいかん!
例えば権力のこととか。
・・・きっと全部実現してしまう」
気付けば、中臣命は、史の両肩を抱いてゆさゆさ揺らしていた。
ミカヅチが吐いた言霊は強く、
そして激しく感銘を受けた直後に言ったものであるから、
とても強く出てしまう・・・
このような主旨の内容を聞かされる史。
現在。
史は、いや不比等は名前の通り、ふたりといない素晴らしい人物になった。
あくまで能力が・・・と言うべきか。
暑苦しい自分を思うと、自己主張すると危険だからあまり自分を出さないように。
権力を持つと目立ってしまい、その性格で以って国を騒がせてしまうから、権力を持たないように
主人(天皇)の命令は絶対。自分が生きてしゃべっているのも、そして存在しているのも主人がいるから。
・・・
真逆の人間になってしまった。
と不比等は思う。
自分のやりたいことを通すために、権力を欲するようになった。
そのためには主人(天皇)さえ利用した。
娘たちをどんどん嫁がせて・・・
「あまり自分を出さないように」
「権力を持たないように」
「主人(天皇)の命令は絶対」
国のためにやっているんだ。
天皇だって利用してるかもしれないが、
それも全部、―国のためなんだ
国のためなんだ
国はミカヅチ様が・・・
不比等は泣いた。
声が漏れないようにしたが、少し漏れてしまう。
何とかしたい、と思い、そして願いを叶える力―
それがおまえの力だ。
俺にはない―
君には君の生き方がある。
応援してるよ
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第3節:完
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