宗像三女神は、スサノオのことが大好きだったが、
「道」の最高神なので、治めるべきことが多く、泣く泣く、早々と別れざるを得なかった。
何しろ高天原も葦原中国も治めないといけないのである。
スサノオはさよならも言い忘れてさっさと、言われた場所にズンズンと向かって行った。
カミムスビとタカミムスビは、心配ではあったが
あまり葦原中国に対して過剰な干渉はしてはいけなかったのと、
あいつ(スサノオ)なら大丈夫だろう。と
高天原に帰って行った。
多分ここら辺だろう、という場所まで来て
「(おっ、根の国の入り口(のひとつ)にも近い。これはいいな)」
と。思っていると。
しくしく泣いている老人の姿が見えた。
家の外に出て、何かを取り出す最中だったのだろう。
一体どうしたのかとその家を訪ねると・・・
中にはおばあさんと、歳の若い娘が、やはり泣いていた。
・・・
話を聞いてみると。
毎年、娘が造る見事な人形の捧げもので何とかなったが、
今度こそ、今年こそ、最初から
『妻によこせ』とヤマタノオロチから言われていた
この娘、
とのことだった。
クシナダヒメは人形造り師で、とても素晴らしい人形を造るので
それで生計を立てていた。
それで親子三人で幸せに暮らしていたのである。
今までは本人の代わりに、彼女の造る人形を捧げてきた。
あまりにも素晴らしい人形なので、ヤマタノオロチも仕方なく去って行く、
それが七年続いたのだが、
八年目の今年、とうとう『本人よこせ』ということになってしまった。
おじいさんは説明している最中に泣き崩れ、
クシナダヒメも続いた。
スサノオは、自分から見て右にある、人形ではないがぬいぐるみが並んでいる棚を見た。
「随分うまいですね。・・・って」
そこには、アマテラスのぬいぐるみ、ツクヨミ、自分(スサノオ)・・・つまり三貴神のぬいぐるみが
多くのぬいぐるみに紛れて、さりげなく置いてあった。
「可愛い・・・」
きゅん、とスサノオはときめき、いつまでも見ていた。
クシナダヒメは身を起こし、
「・・・スサノオ様ですよね?」
実際は長い、略さない正式な名前で呼んでいるのだが。
おじいさんが驚いてバッと顔を上げた。
「何と!あのアマテラス様の弟、お、弟君の・・・」
う・・・とスサノオは戸惑った。
ヤマタノオロチをやつけに来たのに
身分がバレたら面倒臭いことになる。
「何か、いかにも強そうな方だな、と思ったのです。
こんな強そうな方・・・絶対スサノオ様かと」
確かに、彼は『いかにも強そうなオーラ』は出ている。
しかしそれは、怒った時のみで、
ヤマタノオロチが、山八個分の大きさなのに、
たったひとりの女の子をお嫁さんにしようとし、断ると近辺全部を(略)というのが
どうしても許し難いもので、
ずーーーーっと怒りを抑えているからであった。
(心の中は、赤い炎を超えた、黒い炎になっていた)
是非、やつけさせて下さい!
スサノオは男らしく言った。
しかし剣を持っていないのです。
・・・姉上に預けているので。
(預けているというか、処分して下さい、の意味で彼はアマテラスに剣を渡したのだが)
剣ねぇ。
おばあさんはパッと右手人差し指を上に上げて
思い出したように言った。
「・・・確か、ヤマタノオロチの尻尾には、宝剣が埋まっているって」
尻尾と胴体の境目あたり、八つあるうちの真ん中のでかい尻尾・・・
色々おばあさんは記憶で覚えているものを挙げ連ねた。
「その宝剣をもらい受けよう」
スサノオの目が鋭く光った。