何らかの事情で、神だったものが人間に生まれ変わることがある。
それは、魂そのものが人間として生まれ変わる場合もあるが、
たいていは「魂の分割」というものをして、分割された魂が人間として生まれ変わる。
早い段階で、人間が作った神社に、魂を分割して納めているからである。
八柱いる兄弟神たちがいた。
みな、同じような容姿をしていたのだが、、
一柱だけ、みなとは明らかに容姿が違っていた。
他の兄弟たちは毛が逆立っており、
邪神のような外見をしていたのだが・・・
その神は、
美しい艶やかな髪、白い肌
とても美しく妖艶な外見をしていたのだが、、
笑みだけは邪悪のそれだった。
莫迦にしているのか・・・
元々の顔立ちがたまたまそうなのか・・・
何故か不敵にふふっと笑うその顔。
「笑う」というより「嗤う(わらう)」という漢字の方が合っているかもしれない。
その兄弟神たちは、
いつぞや、はるさんが黄泉の国に行った時に生み出され、
タカミムスビが「素晴らしい、是非譲ってくれ!」とはるさんに交渉をした、雷の神たちであった。
高天原で創られた雷の神、ミカヅチは天において最強の神であったのだが、
あまりに優しすぎ優柔不断すぎて、とうとう父であるオモヒカネ(知恵の神)にも、
祖父のタカミムスビにも見放された。
雷というのは「神鳴り」にも通じ、
とても尊いものだ。
元はタカミムスビが、自分を律するために、イザ自分が駄目なことをした時に
裁いたり或いは殺してくれる神が欲しくて、
息子のオモヒカネに頼んだのである。
自分で自分を殺せる神は、どうしても防御本能が自動的に働いて作れないからだ。
(自分で自分を思いっきり殴っても、どうしても勝手に体が自分を守ってしまう現象に似ている)
タカミムスビは大樹の形をしている。
樹を弑するのは雷である。
昔から神の怒りなどは「裁きの雷(いかづち)」などと呼称されるが、
父のような存在というか、大いなる『神』のような存在のげんこつは「雷」であったのだ。
表現がアレだが。
そんな、雷の神を、タカミムスビの息子である「知恵の神:オモヒカネ」は全身全霊で創り上げたのだ・・・。
もう二度と創れない。
そのため、タカミムスビにとっての理想の雷の神が出来ず、
タカミムスビはとても落ち込んでいた。
が、ついに、というか偶然、
黄泉の国ではるさんがぽこぽこと雷の神を作りだしていて、
それがまさにタカミムスビの「理想の雷」たちであり
はるさんに「譲ってくれ!」と懇願した、に至る。
雷の神たちは八柱おり、
見た目は本当に「雷の神なのですが、、」と紹介しても「ああ」とさえぎられるぐらいの勢いでみなが納得する
風貌をしており、髪の毛がウィルスのとげとげのように、あちこちに逆立っていて、
目の縁には「目にまるまるアイライン引いてるんですか?」と言わんばかりのぶっとい線が引かれていた。
口もでかく、分厚かった。
顔色も悪い。
そして背中を丸めて姿勢を悪くしながら歩いている。
ただ、性格は可愛くそして優しく、八柱もいるのに集団行動は均整が取れており、
ひとりだけ仲間外れのはずの色白の神を差別するようなことは一切なかった。
ただ、言葉数が少ないため、
適切な言葉を表現するとしたら「とても優秀な警察犬」「心も優しい」―・・・と言ったところか。
話し方がカタコトというか。
少しだけ知能が足りないかもしれないが、
雷の神としての圧倒的な強さ、そして強い神に必要不可欠な「優しさ」が備わっていた。
しかし・・・
色白の美しい雷の神だけは、
知能が一般の神と同じで、話し方も普通であった。
名は
八柱の神々は、それぞれ雷の様々な姿を、個別に司っているのだが、
伏雷神はその、
雷が雲に潜伏して雷光を走らせる状態、を司る雷神であった。
八柱のうち、もっとも強い
は目印になるものが必要かもしれない、と
タカミムスビは彼の左腕に青い印を付けた。
八柱は、はるさんにスッと背筋を真っ直ぐにして深々と礼をして、
タカミムスビの元に行った。
伏雷神はやはり不敵な笑みを浮かべ、スッと礼をすると
美しい黒髪をさらっとなびかせてはるさんの元を去った。